あわせて読みたい
監督だけが悪いのか 西武の交代劇が映す構造的問題
進化するマネーボール
2024年6月16日 5:00
日本経済新聞
西武が苦境にあえいでいる。負けが込んで借金が15まで膨らんだ5月下旬、松井稼頭央監督が休養し、渡辺久信氏がゼネラルマネジャー(GM)と兼務する形で監督代行となったが、現場のトップを代えても状況が好転しない事実は問題の根深さを物語っている。
松井監督は西武で現役を引退した翌年から3年間、2軍監督を務め、1軍ヘッドコーチを経て2023年、1軍監督に就任した。球団にとっては、長年チームの「顔」として活躍した日米通算2705安打の名選手の満を持しての監督就任で、相当な期待があったはず。チーム力の向上はもちろん、スター監督ゆえの観客動員増加をもくろみ、営業面でも「顔」役を担わせた。それだけに、就任2年目途中での事実上の退任は誤算だったといえよう。
松井監督は交流戦を前に15勝30敗となった時点で休養した。トップが身を引くのは成績が周囲の期待を大きく下回った時だが、はたして今回はどうだったか。
山川穂高がフリーエージェント(FA)権を行使してソフトバンクに移籍し、代わって打線の中軸を担うことが期待された新戦力のヘスス・アギラーとフランチー・コルデロは不振で早々に2軍落ちし、40歳の中村剛也に例年以上に頼らざるを得なくなった。源田壮亮と外崎修汰は打撃の調子がなかなか上向かず、内外野ともども若手の突き上げは乏しい。他チームに比べて戦力が見劣りしていることを思えば、低迷は想定内といえるのではないだろうか。
選手同士の密な連係が重要な他の球技と違って、個々の能力が大きく結果を左右する野球は、どのような選手で構成するかでチーム力がほぼ決まるといっていい。戦力が他チームと拮抗しているのなら監督・コーチの力量は影響を及ぼす一要素になり得るが、現状の戦力を考えると、今季の西武はそもそも首脳陣による運用でどうこうできるレベルではないと思わざるを得ない。
「松井監督が2軍監督時代に若手を育てられなかった」という見方があるが、監督が代わるごとに方針が変わっては本末転倒で、育成は球団側が責任を持つ仕事ととらえるほうが合理的だ。与えられた戦力で目の前の試合、今のシーズンでいかに勝つかに注力するのが監督の本分で、育成を含め中長期的な観点で最適な人員構成に努めるのは球団の仕事だ。
持続可能な球団経営とチーム強化のプランを持ち、それに沿う選手をドラフトで獲得し、社会人としても選手としても一人前に育てて1軍に送り出す。監督はその選手たちがモチベーションを高く保ち、持てる力を発揮できるようコミュニケーションを取りつつ、気持ちよくプレーできる環境の整備にいそしむというのが、組織としてのあり方だろう。
そうした職務の分担を含む業務設計が球団としてどれだけできていたか。現場のトップが渡辺GMに代わっても事態がなかなか改善しないのは当然といえよう。
続きは↓
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODH121R10S4A610C2000000/