なぜ結婚をしない人が増えているのか。『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』(ハヤカワ新書)を上梓した精神科医・熊代亨さんは「コスパやタイパといった考え方が浸透し、結婚や子育てはコスパが悪いと考える人が増えている。これは、資本主義による人間の家畜化が進んだ結果だ」という――。
すべてが「コスパ化」している
今日、資本主義的な考え方は経済活動だけにとどまらず、投資・資本・費用対効果(コスパ)といった概念は色々な場面に適用されがちです。そうしたなか、タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉も登場し、三省堂の「今年の新語2022」の大賞に選ばれました。
文化資本や社会関係資本といった言葉が象徴するように、社会学者たちは学歴・教養・礼儀作法・人間関係・健康・美容・マインドまでをも資本財とみるようになり、実際、それらは投資やリスクマネジメントの対象にもなっています。してみれば、現代人の行動の広い範囲が資本主義の思想に基づいていて、この思想はよく内面化されていると言えるでしょう。
コスパやタイパといった考え方は広く浸透し、たとえば動画サイトを二倍速で視聴するような習慣も生み出しました。人生についても、「コスパの良い人生」などといった言葉が語られ、賛否はあるにせよネットメディアを賑わせています。
人生を資本主義に支配されていいのか
それにしても、コスパの良い人生とはいったい何でしょう? 人生をコスパで推し量るとは、人の一生という、もともとは資本主義に基づいていなかったものを資本主義の考え方に落とし込んで費用対効果に換算すること、人生の価値基準を資本主義のそれに換算し、その思想に基づいて生きることではないでしょうか。
コスパやタイパを意識する人々とて、隅から隅まで資本主義の思想どおりに生きるような原理主義者ではないでしょう。とはいえ、本来資本主義に基づいていなかった領域までコスパやタイパで考えすぎれば、資本主義にそぐわないもの、遠回りかもしれないもの、効率的でないもの、リスクを伴うものが選びにくくなります。
中学のときにクラスのあいつとあの子がつきあってるって話題になったとき、
そういうのはませた一部の人達だけで、自分を含む大多数にはまだ早いのだと思った。
高校のときに、中学では大人しかったあの子が今はやりマンなんだって話を耳にしたとき、
セックスなんてこういう不良が面白半分にしているもので、
ほとんどの高校生には無縁のことだと思っていた。
大学で同じサークルの先輩が彼女と同棲しているなんて聞いたときには、
ほとんどの大学生は普通に一人暮らししてるし、
恋愛がトントン拍子に進んだ一部の人達の話だなと思っていた。
しかし大抵の大学生が恋愛したりセックスしていることは想像したこともなかった。
社会人になり、知り合いが結婚するって人伝いに聞いた。でもまだ結婚するやつなんて少なかったから、まだ俺には関係ないなと思った。
しかし同年代の大多数は恋愛経験を積み、すでに恋人をみつけているということに気づいて愕然とした。
俺が女の子と付き合うのはまだ早いのだと、ずっとそう思い続けてきた。
いつそういう時期がくるのかはわからないが、そのうちだろうと軽い気持ちでいた。
セックスは2次元やAVの中の出来事でリアリティがなかったから、こんないやらしいことをみんなしているなんて思いもせず、
非処女には高校のときのやりマンやAV女優のような汚れたイメージしかなかった。
でも実際は恋愛やセックスは当たり前で、気がつけば俺の方が社会の「ごく一部」になっていた。