【中略】
もちろん、なかにはそういう人もいるはずだ。しかし、本書に登場するホームレスの多くはちょっと違う。
諸事情があるのは事実だろうし、なかには「ああ、この人は人間としてだめだな」と感じさせるタイプもいる。
だが、外からどう見えようとも、意外なくらい楽しそうに見える人も少なくないのだ。そもそも
食べるものがないどころか、充実した食生活を送っている人が多い。
●ホームレスには年金をもらっている人もいる
代々木公園でカレーを二杯食べる十四時から都庁下で食料の配給夜八時頃キリスト教系団体がパンを配りに来る夜九時頃「スープの会」がスープを配りに来る。(74~75ページより)
このようにさまざまな団体が食料を配りに訪れたり、炊き出しを行ったりしているのである。
そして時間を持て余したホームレスの多くは、各所を移動して食べものを確保する。本書では、墨田区・白鬚橋の炊き出しに始まり
都庁下、池袋、上野公園などを巡回する「一日七食炊き出しツアー」のことも描写されている。
「世間の人たちはホームレスのことを悲惨だと捉えているでしょう。もちろんそういう人もいるんですよ。だけども、今となってはそういう人のほうが少ない。
昔はそういう人ばっかりだったけど、辛い人は生活保護に行けるようになった(二〇〇八年の年越し派遣村を機に)んだから。
今でもホームレスやっている人っていうのは、僕らみたいに年金をもらっている人が多いんですよ。
上野公園で暮らして十八年というホームレスの「コヒ」が公園内のベンチに座り、スーパーで買ったキムチをツマミに焼酎を飲みながら話す。(152ページより)
この点については、わかりやすく解説されている。
保険料の納付月数が短く受給額が少ない場合(3万円/月で貯蓄がないなど)、多くは生活保護を受けることになる。だが、厚生年金にも加入していて
月に14万円程度を受給できる人だとしたら、生活保護は受けられないし、そもそも部屋を借りられる。
では、7万円~9万円/月の人が生活保護を受けるとどうなるだろう?
月に十二万七九二〇円(台東区在住65歳単身者の場合)の生活保護費のうち、少なくとも家賃(住宅扶助)として五万三七〇〇円が差し引かれ、生活扶助は七万四二二〇円となる。
そこから「共益費・管理費・光熱費」もかかってくるため、自由に使える金がホームレス時よりも減ってしまうという現象が起きてくる。
「だったら路上でもいいから少しでも自由になる金を使えたほうが俺はいい」
そう考える人がホームレスになっているのだ。
実際にホームレス生活をしていると分かるが、路上で暮らしながら月七万~九万円の収入があれば相当リッチな生活ができる。
だって、私は三千五百円/月でもなんとかなっているのだから。(153ページより)
日本はなんと恵まれた国なんだ
働かずに生活保護を受けながら、炊き出しなどを利用して食べるものを食べ、路上で自由気ままに暮らすという日常は、たしかに気楽なのかもしれない。
そこで、「月7万円で不自由なく暮らせるなら自分にもできるのではないか」と想像を膨らませてみたが、少なくとも私には無理そうだった(当然の話かもしれないけれど)。
そもそも衛生面に耐え難いものがあるし、そうしたことを除いても
「地味でもいいからきちんと働いて、贅沢できなかったとしてもきちんとした家で暮らしたい」という欲求があるからだ。
一般人としていたって普通の感覚だと思うが、長らくホームレスを続けていると(あるいはそれ以前からかもしれないが)
「これでいいや」というような感覚が大きくなっていくのかもしれない。