■「尻見せ」は何罪か?
事件は1か月前に発生したものだが、店の110番通報を受けた警察が防犯カメラの映像などから男を特定し、逮捕に至った。男は尻の線に沿って切り込みが入った黒色のストッキングを履いており、露出した尻を店員に突き出して見せつけた上、左右に振ったとされる。店員と面識はなかった。
ただ、陰部ではなく「尻見せ」で逮捕されるケースは珍しい。こうした場合、刑罰が軽い順に次の3つの犯罪の成否を検討する必要がある。
(1) 軽犯罪法違反
公衆にけん悪の情を催させるような仕方で尻、ももなど身体の一部をみだりに露出した場合、拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)または科料(千円以上1万円未満の金銭罰)
(2) 刑法の公然わいせつ罪
不特定または多数の人が認識できる状態でわいせつな行為をした場合、最高で懲役6か月、罰金だと30万円以下
(3) 都道府県の迷惑防止条例違反
人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をした場合、愛知県だと最高で懲役1年、罰金だと100万円以下
過去の「尻見せ」事件の摘発例を見ると、ほとんどが(1)であり、次いで(2)で、(3)は珍しい。大相撲が堂々と全国放送されているように、陰部と違って尻は性的な意味合いが乏しいとされているからだ。未明のコンビニに下着姿で入り、陳列作業をしていた店員の顔に向けて下着を下ろし、尻を突き出した男が(2)で逮捕されたものの、わいせつ性に疑義があるとして不起訴になっている。
■具体的なケースは?
実際の事件では、悪ふざけや嫌がらせで「尻出し」する場合が多い。例えば、成人式に出席する前に首里城の守礼門で袴をめくり、尻を見せた男や、寺院の販売所で尻を出しながらカウンター越しにお守りの販売をしていたアルバイトの男が(1)の軽犯罪法違反で書類送検されている。タクシー運転手の男が運転席でズボンやパンツを下ろし、尻や太ももを露出させたまま女性客を乗せて走行したという変わった事件もあったが、やはり(1)で書類送検された。
これに対し、(3)の迷惑防止条例違反が適用されたケースとしては、スカートをはいた男がこれをまくり上げ、下校途中の小学女児に尻を見せた事件がある。夜半、女子高生を自転車で追い越し、「お尻を見てくれませんか」と声をかけ、ズボンを下ろし、尻を見せた男も(3)で逮捕された。自治体の「不審者情報」に掲載されるような事件だ。今回の男も、単に尻を見せただけでなく、ストッキング姿で露出した尻を左右に振ったということで、(3)による逮捕に至った。
ただ、より悪質であるはずの陰部まで見せた事件だと、大半が(3)よりも罪が軽い(2)の公然わいせつ罪で起訴されている。「尻だけ」の事件を(3)で起訴するかというと、微妙なところだ。男の動機や経緯、背景事情、犯行態様などによっては、検察が男の刑事処分を決める際、(3)ではなく(1)の軽犯罪法違反を適用することも考えられるだろう。(了)