女性教諭が23年1月に所属先の小学校に提出した報告書などによると、2人は19年4月、6年生(2クラス)の担任となり、男性は学年主任だった。
女性「報復恐れ拒めず」と告発
当時、男性は既婚、女性は未婚だったが、男性教諭が女性教諭に好意を抱き、19年7月から男性教諭が他校へ異動する21年春まで、校内で日常的に胸や尻を触っていたほか、男子トイレ内での性行為、裸の写真や下着姿などのわいせつ画像の送信要求などを繰り返していたという。
女性教諭は報告書の中で「(男性教諭の要求を)拒否すれば『明日以降、もう助けてくれなくなるのでは』と仕事への不安で行為を拒めなかった」「男性教諭の異動後も報復やリベンジポルノを恐れ、ずっと心の中にしまいこんでいた」と説明。教育委員会への報告と男性教諭の処分を検討するよう求めた。
男性、弁護士立てて調査応じず
市教委などによると、女性教諭の告発に先立つ22年12月、女性とは別の小学校で教務主任に就いていた男性教諭は校長に対し、女性教諭との不倫関係と、わいせつ画像のやり取りを打ち明けた。その後、校内での性行為に関する情報も外部から入り、校長が男性教諭に確認すると「性行為を学校でした。彼女が傷ついていることに気付かなかった」などと認めたという。
市教委は23年3月までに2人への聞き取り調査を実施。しかし、男性教諭は調査に直接応じず、代理人弁護士を立て、女性との不倫関係や画像要求を認める一方、校内での性行為を否定したという。
その後、男性教諭側は女性教諭に対し、自身が退職することや女性に解決金を支払う条件として、「双方、(今後は)市教委の調査に一切回答しないこと」「女性側が既に市教委に話していることを撤回すること」などを提示。女性側は応じ、23年5月に示談が成立した。男性教諭は同9月末まで勤務した後に退職。女性教諭は現在も在職している。
市教委「事実認定できなかった」
校内での性行為が事実だった場合、通常なら懲戒処分の対象となるケースだが、調査をしてきた市教委教職員課の担当者は「双方の主張に食い違いがあり(校内での性行為は)事実認定できなかった」と説明する。示談に基づき双方が話さなくなったことが影響したとみられるが、担当者は「(示談の影響は)あるともないとも言わない」と述べるにとどめた。
名古屋大大学院の内田良教授(教育社会学)は「弁護士が入って対応したことは道義的には許されない」と男性教諭側の対応を批判する。
男性教諭は校内での性行為を校長に認めていたが、校長はこの点を市教委に報告していなかった。校長は毎日新聞の取材に「校内での性行為は後から認め、その頃には個人間で(解決に向けた)やり取りをしていると思い、報告書を上げなかった」と説明する。
内田教授は「校長が報告しなかった結果、教育委員会の対応が遅くなり、その間に弁護士が入って示談となったのだろう。学校という教育施設で起きたことであり、本来なら示談で解決するのではなく、懲戒処分という形で適切に対応すべきだった」と指摘する。
内田教授によると、学校には暴力やハラスメントに対して内部での指導で乗り越えようとする文化があるといい「男性教諭は教務主任という期待される立場でもあり、校長は何とか指導で乗り越えようとしたのではないか」と推測。「困った時に適切に相談できる態勢があれば、こうした事案は起きなかったかもしれない」と指摘している。【川瀬慎一朗
毎日新聞 2024/1/14 05:30(最終更新 1/14 07:15) 1532文字