餅を食べる親に「気をつけて」と声をかけるな…高齢医療のプロが警告する「餅を喉に詰まらせやすい瞬間」

餅を食べる親に「気をつけて」と声をかけるな…高齢医療のプロが警告する「餅を喉に詰まらせやすい瞬間」

餅を食べる親に「気をつけて」と声をかけるな…高齢医療のプロが警告する「餅を喉に詰まらせやすい瞬間」

■「餅の窒息事故」の43%は1月に発生している

新年が明けた。お正月は遠方から帰省した家族も集まり、家族団欒のひとときを過ごす人も多いと思うが、新年早々なんとも心苦しいニュースが、毎年必ずテレビから流れてくる。

高齢者の餅による窒息事故のニュースである。

2020年の年末に発信された消費者庁発表によれば、厚生労働省の人口動態調査における「不慮の事故」による死因のうち、食物が原因となった窒息による65歳以上の死亡者数は、年間3500人以上。80歳以上の死亡者数は2500人以上とのことである。

また平成30年2018年)から令和元年2019年)までの2年間の調査によれば、65歳以上の餅による窒息事故死亡者は、2018年363人、2019年298人の計661人であり、43%(282件)が1月に集中して発生し、とくに正月三が日に多い(127件、うち元日は67件)ことがわかったという。さらに男女比で見ると男:女は7:3、年齢では80歳~90歳で死亡者数が突出して多い。

報道でも注意喚起されるし、政府も広報等で注意を促しているものの、餅による窒息死亡事故がゼロという年はない。これはもう仕方のないことなのだろうか。餅を食べる高齢者がいることが問題なのだろうか。

■お雑煮を作る前に「餅は食べる?」と確認する

昨今、超高齢化にともなう社会保障関係費の増加を受けて「高齢者は集団自決せよ」「延命にかかる費用は保険適用外にせよ」などという暴論を述べる人たちがいるが、もし彼らにこの餅の事故について評論させれば、「好きで食べて詰まらせたのだから自己責任」「もし助けてほしいならその費用は保険ではなく自腹で」などと言うことであろう。

本稿では、そんな人たちに揚げ足を取られないよう、今年の正月の「自衛策」を考えてみたい。

まず高齢の親御さんがいる方は、お雑煮などを作る前に、餅を食べるつもりかどうか尋ねることを勧めたい。

もし「もちろん食べるつもりだ」との言葉がかえってきた場合は、高齢者は徐々に嚥下(えんげ)機能が低下してきていること、そして毎年のように窒息事故が起きており、ひとたび餅を詰まらせると救命困難な場合も少なくないとの事実は、あらためて伝えておきたい。

前掲の広報文を見せて実情を知ってもらうとともに、それでもどうしても食べたいと言う場合は、広報の最後に記載されている注意点を厳守するよう約束してもらうのも良いだろう。

■食事中は声をかけてはいけない理由

また同居していて普段から食事を共にしている場合は、嚥下力が落ちていないかはチェックしたい。過去に誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしたことがあったり、脳梗塞など脳血管疾患の既往があったりする場合、それらはなくとも食事中にむせ込むことが多い人、この1年間で体重が減少傾向にある人は、餅の摂食は極めて危険である。

これら以外の人であっても、安心はできない。とくに「ひと口が大きい」「よく噛まずに飲み込む」「食べるのが早い」という元気な人は要注意だ。注意を促しても「なにを言うか、俺は絶対に大丈夫」と笑い飛ばすような、自信に満ちた人こそ危ないと思ったほうがいい。

食べる際には、複数の家族の目の前で食べてもらうことは徹底したい。窒息の場合、発生してから発見までの時間が生死を分けるからである。勝負は4分間。発見した場合の処置は日本医師会が出している「救急蘇生法」を参考にしてほしいが、処置とともに救急要請も同時に行うことが必要だ。

餅を口に運ぶのを見たときには、完全に飲み込むまで家族は目を離してはいけない。「気をつけてね」などと、飲み込もうとしている最中に話しかけるのもNGだ。返事をしようと息を吸ったタイミングで喉に貼りついてしまうかもしれないからだ。

■それでも食べたい場合は「介護餅」を使ってみる

ちょっと視点を変えて、「餅」に工夫をこらすという手もある。私は料理の専門家ではないから詳しくは述べられないが、ネットをみると、豆腐と片栗粉を混ぜ合わせたものを電子レンジで加熱して作る「代用餅」のレシピを紹介しているサイトもある。

また粘り気を抑え歯切れを良くしたり、歯茎でつぶせたりするタイプの「介護餅」も考案され、ネット販売もされている。いずれも本来の粘り気ある餅の食感を存分には楽しめないかもしれないが、お正月気分を味わいたいという高齢者に活用できるアイテムではなかろうか。

いったん本題と少し離れるが、年末年始、せっかく親御さんと話す時間が持てるなら、この機会にアドバンス・ケア・プランニング(ACP)について話し合ってみるのもよいだろう。

ACPとは「将来の変化に備え、将来の医療およびケアについて、本人を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組み」のことを言い、「人生会議」とも呼ばれるものである。

■高齢者に「延命治療」をするケースは極めて少ない

人は誰しも加齢とともに身体機能が低下し、大きな病気を持っていない健康な人にも例外なく、必ず最終的には死が訪れる。だが、その自分の人生の最終局面をどのように迎えたいかという個々人の希望や意思は、それこそ千差万別だ。ACPとは、こうした個人の希望や意思を尊重し、可能なかぎりそれらに寄り添い実践するための取り組みであるともいえる。

「最期は苦痛だけはとってほしい」「自宅で最期を迎えたい」「人工呼吸器はつけてほしくない」「延命治療は望まない」などなど、考えたことがある人も少なくないかもしれない。

ただ、先述した「高齢者は集団自決せよ」「延命にかかる費用は保険適用外にせよ」などと言う人たちは、実際の医療現場で働いていないから知らないのかもしれないが、高齢者医療を主としておこなっている私に言わせれば、高齢者に「延命治療」をおこなうケースなど極めて稀(まれ)だ。

厳密な意味でのACPとは言えなくとも、「無意味な延命治療はしないでほしい」という意思を明確に示している高齢者も、近年では珍しくなくなっているからだ。「厳密な意味でのACP」については紙幅の都合もあり、ここでは詳述できないが、少なくとも自身の終末期について「してほしいこと」あるいは「してほしくないこと」を事前に意思表示しておこうという流れは徐々に広まりつつある。

■「餅を喉に詰まらせた高齢者」は延命の対象なのか?

ここで「餅を喉に詰まらせた高齢者」にたいして行われる医療について考えてみよう。これは「延命治療」といえるだろうか。

答えはノーだ。

詰まった餅を取り除き、気道を確保するのは「延命」ではなく「救命」だからである。

このケースにおける「延命治療」とは、その救命処置ののちに、脳が不可逆的な障害を受けて二度と自力で呼吸が不可能もしくは循環を保てない状態に陥ってしまった人にたいして継続される医療のことを指すと考えればわかりやすいだろう。

医療現場ではそのような状態になった場合、事前の本人の意思確認がとれていないときは、家族に判断を仰ぐことが多いが、状態にかんして十分な説明をしてもなお「延命治療」の継続が希望されるケースは、今や極めて少ないといえる。

しかも残念ながら、高齢者がこの状態に陥ってしまった場合は、機械を装着してもそう長くは延命できない。つまり高齢者にたいして仮に延命治療なるものがおこなわれたとしても、社会保障関係費を高騰させるほどの費用は発生しないと考えてよいのだ。

■この正月こそ「人生会議」をしてみてはどうか

重要なことにて繰り返すが、餅を喉に詰まらせた高齢者にたいする医療は、延命でなく「救命」である。これについてまで「ムダな延命治療だ」と言う人がもしもいるなら、それは暴論どころか、人道を踏み外した「見殺し論」だと断じてよい。

つまり、もしACPで「私は無意味な延命治療は受けたくない」との意思表示をしていた人であっても、つい先ほどまで元気で家族に囲まれて談笑していた直後に餅を喉に詰まらせた場合は、いかなる批判があろうと遠慮することなく救急救命医療を受けて構わないのだ。

だが、もし万が一それすら望まないとの確固たる希望がある人は、その意思を事前に明確にしておくことが、家族にとって、いや何よりも自分のために重要であることは間違いない。

こうした終末期にかんする話題は、家族といってもなかなか日常的にはしにくいだろう。しかしこういう重要な「命の話題」こそ、むしろ深刻になりすぎない場、たとえば年末年始に家族で集まったときがよい。ざっくばらんに笑いながらも、とはいえ真面目に、お互いの思いを述べ合える良い機会といえるのではなかろうか。

もちろん笑いながらといっても、餅を口に含んでいる最中には、絶対に笑わせてはならないが。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャルプランニング技能士。1968年カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Athena345T

(出典 news.nicovideo.jp)


(出典 maruhayaantena.net)
餅は美味しいけれど、喉に詰まらせるリスクもあるんですね。特に高齢の方は気をつけないといけませんね。食べる際にはゆっくり噛んで飲み物と一緒にいただくようにしています。安全に楽しむためのポイントを教えていただきありがとうございます。

<このニュースへのネットの反応>

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