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【東京新聞】 「帝国の慰安婦」無罪判決を突き放す韓国メディアのロジック 根深い先入観「被害者をおとしめた」
朴裕河・世宗大名誉教授(66)の上告審判決で、韓国最高裁は10月、無罪の判断を示し審理を高裁に差し戻した。
学問の自由を尊重する妥当な内容だったものの、韓国メディアの関心は低く、「無罪だからといって朴氏の主張が正しいわけではない」
と突き放した反応が目立つ。同書は日本では複数の賞を受けるなど好意的に迎えられたが、改めて日韓の視点の違いを痛感する。
(ソウル支局・木下大資)
「帝国の慰安婦」 2013年に韓国で、14年に日本で出版された。
日本の植民地支配下で多くの女性が慰安婦になった過程には朝鮮人業者が介在し、家父長制の社会構造も影響したと指摘。
韓国の市民団体が「旧日本軍による強制連行」を強調するのは実態と隔たりがあるなどとして、日韓の認識の差を埋めようと試みた。
判決を報じた韓国紙の扱いは概して控えめで、朴氏が「慰安婦被害者を『売春』と表現した」などと、誤解を含む表現も多かった。
比較的しっかり報じた保守系の朝鮮日報も、慰安婦と日本の兵士が「同志的関係」だったとの記述を問題視し、
「被害者を憤らせた十分な理由がある」とする論評を掲載した。
そうした記述は、文脈を考えれば著者の悪意を示すものではない。
最高裁も「全体的な内容や脈絡に照らせば、慰安婦が自発的に売春行為をしたとか、
日本軍に積極的に協力したという主張を裏付けるために当該表現を使ったとはみられない」と認定した。
だが、元慰安婦のハルモニ(おばあさん)たちへの共感が広く共有されている韓国では、
どうしても同書が「被害者をおとしめた」という先入観が根強く、否定的に読まれてしまうようだ。
また、同書の核心は「慰安婦問題で日本の責任は否定できないが、法的責任を問うことは難しい」と主張した点にある。
これは日本政府の法的賠償を求めて運動を続けてきた韓国の市民社会にとって、受け入れにくい主張だ。
日本の植民地時代に詳しい歴史研究者の韓恵仁ハンヘイン氏は「『不当だが合法』という論理は帝国主義の視線だ」と断じる。
一方で「韓国では、日本に関連することでは左も右も民族主義的な型の中にいるので、
朴氏の持つ『日本的な視点』が感情的に受け入れがたい」とも話し、興味深かった。
ともあれ、最高裁は「学問的な表現物の評価は刑事処罰ではなく、公開的な討論と批判の過程を通じて行われなければいけない」
と付言した。
朴氏を告訴した一部の元慰安婦や支援者を除けば、革新系の陣営からも「刑事裁判でやるべきではなかった。まともな判決だ」
(ハンギョレ新聞の記者)との声が聞かれる。今後は日韓の歴史問題を巡り、冷静な議論が交わされることを願いたい。
2023年11月15日 17時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/289713