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※本稿は、西多昌規『休む技術2』(だいわ文庫)の一部を再編集したものです。
■休日くらいメールを見ないでおきたいが…
みなさんは、休日を含む勤務時間外に、仕事のメールチェックをしているでしょうか?
わたしのような裁量労働制の大学教員は、一年365日、起きている時間はほとんどメールをチェックしています。大学からの通知やメーリングリスト、ダイレクトメールを含めると、一日に平均して100通ぐらいは受け取っています。もっと多いという人もいることでしょう。週末に一日でもメールをチェックせず放置したらと、考えただけでもゾッとします。「メール蓄積地獄」から逃れるため、休日も旅行中も、メールをチェックして必要があれば返信する、という人は多いと思います。
「本当は休日くらい、メールも見ないでオフにしたいが、月曜日のメール数を思うと、精神的に休めない」
この件についてたずねると、会社員からわたしの身近では大学の事務職員のかたまで、メールが業務の重要な部分を占めている職種の人は、メールチェックをオフにしたいけれどできない心理にすごく同意してくれます。
業務時間外のメールについては諸外国でも問題となっていて、フランスでは既に2017年、勤務時間外や休日の業務連絡を拒否できる「つながらない権利」を認める法律が施行されています。休暇中でも仕事のことを考えず、心も身体もしっかり休ませるためには、努力義務ではなくちゃんと法律で決める必要があるということですね。
この「つながらない権利」は、外国の企業を中心に広まってきていますが、部分的に取り入れている日本企業もあるようです。たとえば三菱ふそうトラック・バス株式会社では、2014年から長期休暇中にメールを受信拒否、自動削除できるシステムを導入しています。しかし、仮に日本で完全に「つながらない権利」を行使できるようになったら、どうなるでしょうか。
■休日の朝にメールチェックをすれば楽になる
おそらくオフの日につながらなくても、「明日の朝、ものすごい数のメールがたまってそう」「すぐにレスしなければならないメールが来ていたらどうしよう」というように、休み明けのメール蓄積とその処理に対する予期不安で、スッキリしない休日になってしまう気がします。
このようにメール対応が仕事の主要な業務になっているという人に対しては、以前ならばわたしは「休日はオンとオフをはっきりさせたほうがいいから、メールはしないほうがいいよ」とすすめていました。あるいは、外国のように、週末だけ「今はつながらないので、月曜以降にお返事します」といった自動返信を設定することもすすめていました。
もちろん、この方法のほうがしっくりくる人もいます。しかし最近では、たとえば休日の朝にメールチェックして、不要なメールは削除したり、簡単に返信しておいたほうがいいメールには返信してメールボックスをスッキリさせて、それから休日を楽しむというやり方も悪くないと思うようになりました。
メールボックスをスッキリさせれば、気持ちも少しスッキリして休日を過ごせます。小さな達成感も得ることができ、休み明けのメール蓄積恐怖も、軽くすることができます。休日にもかかわらずメールが届きすぎるという人は、たとえばネットショッピングのメールマガジンの登録を解除するなど、不要不急の定期メールを整理することをおすすめします。
■週末にメールが届くのは自業自得の場合も
こういったジャンクメールも、脳に余計な負荷をかけます。解除したくないならば、メールの自動振り分け設定で、アーカイブに入るようにするなど、受信ボックスをきれいにしておく工夫が大切です。
また、週末にメールがたくさん届くのは、あなた自身に問題があるかもしれません。重要な依頼や相談ごとを、金曜日の夕方にメールするのは、あなたにとっては大切なことなのでしょうが、相手にとっては迷惑な話です。タイミングを選ばずメールをしていると、相手もそのようなタイミングで返信、あるいは質問をしてくるようになってきます。緊急時はやむを得ないでしょうが、メールのタイミングというのは、かなり相手の心証に響きます。
重要な相談ごとは、ぜひ週の前半・中盤でしておくように努めましょう。
■「即レス」が求められるようになりつつある
LINEが普及し始めた頃、「即レス」「既読スルー」が話題となりました。即レスをしないといじめられる、即レスしないと嫌われる、既読スルーは関心のないサイン、などといったネガティブなコミュニケーションの行き違いも問題視されました。
当時わたしは、若者の話で自分には関係ないと思い、あまり深く考えていませんでした。ところが、今ではわたしも、関係ないというわけにはいかなくなってきました。LINEではなく、ビジネスチャットを使うようになったからです。
ビジネスチャットとは、ビジネスで利用するチャットツールのことで、組織のなかでのコミュニケーションを主な目的としています。メールよりも気軽に会話ができたり、テーマごとにグループを作成できるなどのメリットから、近年、導入する企業や組織が増えています。いろいろなビジネスチャットがありますが、わたしの研究室では世界でも代表的なビジネスチャット、“Slack”を使っています。ここでも、Slackについて、考えていきます。
Slackは、2013年に公開されて以来、世界中で急速に普及して、利用者を増やし続けているコミュニケーションツールです。はじめはエンジニアのかたがメインユーザーでしたが、徐々に一般のビジネスに広まっていきました。
かつてはSlackなんて……と思っていたわたしにとっても、今では研究室のメンバー、大学院生、卒業研究を控えた学部生とのコミュニケーションに、なくてはならないツールです。
■内容よりも返信速度を優先する意識がある
チャットでのやり取りによって、メールよりも会話に近い双方向のコミュニケーションが可能になります。また、ワードやエクセルなどファイルのやり取りは、LINEよりも(少なくともわたしのような中年にとっては)便利です。すべてメールでやり取りしていたら、莫大な数になってどうしようもなくなっていたことでしょう。
今の若い学生にとって、メールは見る頻度が少なかったり反応が遅かったりしてぎこちないツールなのですが、SlackはLINE並みに反応が早いのも、興味深い現象です。便利なSlackですが、頭の痛い問題があります。はじめに触れた「即レス」問題です。
Slack、ここでは国民的チャットアプリのLINEも含めましょう。これらはメール以上に「即レス」が基本です。わたしも、レスは早めにするようにしていますし、用件によっては、相手からのレスが遅いとイライラしたり、「ちゃんと見たのかな」と不安になることがあります。
こういったチャットアプリでは、レスが早い→仕事ができる、やる気があるという評価になりがちです。事実、遅いレスは、相手をイライラさせてしまうでしょう。「できる人はとにかくレスが早い」という、内容よりもレスのスピードを優先する意識が依然として根強いのも事実です。
■「即レス」は生産性や幸福度を低下させる
ただわたしは、最近では、「即レス」のデメリットを痛感することが増えてきました。
なにか仕事をしていて、Slackの通知がピコンという通知音ともに届きます。後回しにすればいいのでしょうが、「後回しにして忘れたらどうしよう」という不安もあり、つい仕事を中断してレスしてしまいます。
少しだけのやり取りでも、それまで取り組んでいた仕事の腰を折られ、また初めからエンジンをかけ直すことになることがほとんどです。「わたしはメール派だから大丈夫」という人も、即レスや頻回のメールで疲弊しますので、注意しましょう。
カナダ、ブリティッシュコロンビア大学の研究では、マルチタスクの原因になるメールチェックを一日3回に制限したところ、日々の緊張やストレスが和らぎ、幸福感が向上しました。一方、制限なくメールチェックをしたところ、ストレスが増加し、生産性や幸福度も下がってしまいました。SNSやビジネスチャットだけでなく、メールでもレスに追われるのは、メンタルヘルスによくないようです。
「即レス」至上主義、あるいは「即レスしないと不安」という即レス強迫症は、集中力が続かない原因となり、結果的に能率を落としていることが少なくないのです。
■スタンプを返すだけでも印象は違う
即レスは大事だけれども、デメリットもある……どうしたらいいのでしょうか。
先にお話ししたとおり、ビジネスチャットは、迅速な情報のやり取りが重要になってきます。即レス自体が目的になってしまい、相手が望む情報を提供していないやり取りになっていないか、相手の立場になって考えてみる必要があります。
ビジネスチャットにおける即レスの心理的重要性は、相手を不安にさせないことに尽きます。相手を不安にさせなければ、即レスにこだわらなくてもよいのです。具体的には、即レスが難しければ、いつまでに連絡する、といったことだけでも伝えておきましょう。手が離せない、メッセージ内容を考えるのに時間がかかりそうなときは、どんな笑顔アイコンでもいいので、リアクションスタンプだけでも押しましょう。
特にSlackでは、リアクションスタンプを押すことが重要です。SlackはLINEと違って、相手からのメッセージを読んだだけでは、相手に既読かどうかが伝わりません。Slackでは、まず読んだらリアクションスタンプを必ず押すという習慣を、参加メンバーで共有しておく必要があります。
「即レスしないと忘れてしまう」という不安も、即レスにこだわる動機の一つです。Slackでは、新規メッセージが入ってくると、古いメッセージはどんどん上にスライドしてしまうので、必要な情報をあとから探すのが大変です。レス忘れが、必然的に生じやすくなっています。
■オープンクエスチョンは相手に負担をかけてしまう
わたしが使っているのは、「ピン留め」機能です。メッセージをピン留めしておくと、背景色がクリーム色に変わるので、レスしていないメッセージをすぐ探せます。即レスが難しいメッセージは、すぐにピン留めしてしまいましょう。
余裕ができてくれば、相手に即レスしやすいメッセージを送るようにしたいものです。「○○について、どうしましょう?」という、はい・いいえで答えられないオープンクエスチョンは、相手のレス負担を増やしてしまいます。「△△でOKか」「AかB、どちらがいいでしょう」など、相手がすぐに答えやすいメッセージを送るよう、心がけましょう。
■時には電話を利用したほうが効果的な場合も
とはいえ、自分は即レス対応ができていても、相手もそうとは限りません。レスが遅い、リアクションスタンプを押さないので読んだのかどうかわからない、確認なのか質問なのかわからない、などなど。ついイライラしたメッセージを送ってしまいたくなるときもあるでしょう。チャットもネットコミュニケーションであり、あなたが意図しなくても、無愛想やイライラ、怒りなど、ネガティブな印象を相手に与える可能性もあります。
「ありがとう」「助かりました」など、好意の感情を入れるか、「!」や絵文字、笑顔のリアクションスタンプなどを入れることで、ポジティブな感情が伝わります。もっとも、入れすぎも気持ち悪くはなるのですが。最後に、ビジネスチャットでのテキストコミュニケーションにも、限界があることも忘れないようにしましょう。
大事な話は、電話や対面で話すほうが、親近感からくる共感が得やすく、よい結果に落ち着きやすいです。緊急の場合は、いちいちビジネスチャットを立ち上げて相手のレスを不安げに待つより、電話を一本入れるほうが速いし間違いありません。ビジネスチャットに頼りすぎないことも、即レス強迫症から逃れる心構えです。
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早稲田大学スポーツ科学学術院 教授、精神科医
1996年東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員研究員などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院・教授、早稲田大学睡眠研究所・所長。日本精神神経学会・精神科専門医、日本睡眠学会・専門医。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。『休む技術』『休む技術2』(だいわ文庫)など著書多数。
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