「フェミニズムは大嫌いで、巨乳キャラは大好き」日本社会でジワジワと存在感を増す”萌え系保守”の正体 

「フェミニズムは大嫌いで、巨乳キャラは大好き」日本社会でジワジワと存在感を増す”萌え系保守”の正体 

「フェミニズムは大嫌いで、巨乳キャラは大好き」日本社会でジワジワと存在感を増す”萌え系保守”の正体 


👉2010年に石原は都議会に漫画やアニメの性的表現を規制する「青少年健全育成条例」の改正案を提出した。

美少女キャラの登場する「萌え系」のアニメマンガは、日本のあらゆるところで見かけるようになった。評論家の白川司さんは「萌え系は右派からも左派からも敵視されがちだが、オタク文化の一つとして日本社会に浸透してきた。未成熟なものを愛するという日本の伝統に則っており、新たな保守勢力になる可能性を秘めている」という――。

■右派の代表、石原慎太郎が敵視した「萌え系」

2011年東京都知事(当時)の石原慎太郎が、あるテレビ番組で「若者をダメにしたもの」として携帯、テレビパソコンの3つを挙げたことがある。それらの道具で多くの知識が得られたとしても、その知識には「身体性」がなく本当の教養にはなりえないと、政治家というより文学者に近い感性で批判した。

マスコミが左派に、ネット言論が右派側に傾くのは多くの先進国で顕著な傾向だ。もともと左派はノイジーに、右派はサイレントになる傾向があり、いわゆるサイレント・マジョリティーには右派が多い(そうでないと、自民党が長期政権になるわけがない)。だから、サイレントマジョリティーが数多く参加するSNSで右派言論の声が大きくなるのは当然だろう。

右派の代表である石原が都知事だったころ、ネット言論は石原の大応援団と化していた。そのネット言論が石原と激しく対立したことがある。それが、美少女キャラが登場する「萌え系」の漫画やアニメにおいてだった。当時は「過激ロリコン漫画」など、少女に対する過激な性描写を含む作品も存在していたことが槍玉に挙がったのだ。

■都知事の“弾圧”を受け、過激漫画は自粛へ

2010年に石原は都議会に漫画やアニメの性的表現を規制する「青少年健全育成条例」の改正案を提出した。東京都ではすでに条例で「有害図書」の規制があったが、新条例では性行為を「不当に賛美し又は誇張するように」表現した、と都の判断で規制できるようにした。

規制に至る基準が曖昧だったことから、創作活動を萎縮させるなどと共産党などの左派や知識人などから大きな反対の声が上がった。ネット言論も、石原の若い頃の小説の過激な性描写を使って大反対の声を上げたが、石原は都知事として強引にことを進めた。

冒頭の発言を知れば、石原が過激漫画を嫌悪する理由がわかるはずだ。多くの過激漫画が年端もいかぬ少女を対象に、犯罪まがいのやり方で性的な行為を迫るような描写があり、その嗜好(しこう)がない者には嫌悪感しかわかないような代物だった。「身体性」を重視した石原が、非現実的な願望をそのまま描いたような漫画やアニメを受け入れるはずもなかった。

その後、過激漫画やアニメは自粛が始まり、おおっぴらに目にすることはほとんどなくなった。ただ、日本の「カワイイ」が世界に拡がっていくとともに、「萌え系」の表現は、日本の「オタク文化」の1つとして浸透していった。

偏見に晒されることが少なくなかった萌え系の表現も、徐々に市民権を得て、萌え系キャラクターの漫画やアニメが多くの人たちに違和感もなく受け入れられるものになった。現在に至って萌え系はごく自然な表現方法として定着している。

■「性搾取的」と批判され、温泉むすめは大失速

そんな萌え系に、新たな「敵」が現れる。

2016年に全国の温泉地をキャラクター化する「温泉むすめ」というプロジェクトが発表されて、翌年にイメージアニメが公開された。それぞれの温泉地の苗字を持つキャラクターに人気声優が声を当てるというやり方が斬新で大好評を博した。このプロジェクト観光庁が後援した。

ところが、2021年に困難少女の支援団体であるColabo代表の仁藤(にとう)夢乃(ゆめの)氏が、温泉むすめに性差別的な性搾取があると指摘して、批判を展開した。

仁藤氏は、「温泉むすめが大好きでいつもスカートめくりをしちゃう」「『今日こそは夜這いがあるかも』とドキドキ」「隠し切れないぐらいの大人な雰囲気の持ち主で、肉感もありセクシー」といった設定文が性搾取的であるという主張が、フェミニズムに理解のある人たちを中心に強い賛同を集めて、批判に晒された温泉むすめプロジェクトは勢いを失った。

■かつて萌え系を擁護した左派の手のひら返し

その前にも、弁護士太田啓子氏が2018年NHKノーベル賞まるわかり授業」でVチューバーキズナアイを起用した際に、キズナアイイラストが性的に強調されていると批判して、論争になっている。さらに太田氏は、2019年には日本赤十字社が「『宇崎ちゃんは遊びたい!』×献血コラボキャンペーン」で、巨乳のキャラクターを使っていることに「共空間で環境型セクハラしているようなもの」と主張して、日本赤十字に対して抗議している。

石原慎太郎という共通の敵がいたときに萌え系の擁護をした左派が、フェミニズムからの批判によって、萌え系が次なる「敵」に転換した。今や共産党などの左派も基本的にフェミニズム側に立っている。

萌え系が広く定着するに至って、フェミニズムが先鋭的に対立しはじめた形だ。

■「オタク男性のもの」という枠を超えつつある

石原が漫画やアニメによる過激な性描写に対して規制を進めたことで、ある程度の「健全化」を果たした萌え系は、上述したように広く浸透していまや若者には違和感がなくなりつつある。萌え系はもはやネットオタク男性のものではなく、通常の表現方法だと言っていいだろう。

社会に定着した萌え系に対するフェミニズム側からの批判に、一部のネット言論は萌え系を「守るべきもの」という意識を持ちはじめている。石原が敵視したように、萌え系はもともと右派から嫌悪されやすく、保守と相性が良くない。私もその立場であり、多くの保守派と同じように、石原の戦いについてはさほど関心を持っていなかった。

そんな私でも、神田の街で神田祭の告知ポスターアニメラブライブ!』が描かれたのを初めて目にしたときに、その浸透度を実感した。神田祭をおこなう神田明神が『ラブライブ!』の舞台になっていた縁ではあるものの、神田祭は地元の祭りであり、神輿を担ぐ者は年配者が多い。その老舗神社が萌え系を違和感なく取り込んだことは、萌え系がサブカルチャーの枠を超えつつあることを意味している。

■「未成熟なのに巨乳」という矛盾を表現

拙書『14歳からのアイドル論』(青林堂)で論じたように、日本には未完成・未成熟なものを愛する伝統がある。それは現代においては、「未成熟の一生懸命を応援する」というアイドルの消費の仕方に表れている。萌え系も基本的には未成熟を描いており、日本独自の表現形式から生まれたものだ。

さらに、萌え系の女性キャラクターは巨乳であることがままあるが、巨乳は母性を表現しており、萌え系には未成熟と母性という一見、矛盾する思想が表現されている。また、矛盾するからこそ二次元でしか表現できないとも言えるだろう。

未完成・未成熟なものを愛するという日本の伝統と、愛情で包み込むという伝統的な母性を成立させる表現形式の「成熟」を果たした萌え系は、日本の伝統に則っているからこそ保守になりうる性質があったのである。

私はこれを「萌え系保守」と名づけ、従来の保守とは違った保守のあり方の可能性を提案したい。

■「ロリコン」との曖昧な境界線が課題に

ただし、今のところは「保守の亜種」という評価にとどめることにしたい。というのは、萌え系には「ロリコン」が入り込む余地があまりにも大きく(ロリコン志向がある場合、胸は小さく描かれることが多いだろう)、その境界が曖昧だからである。萌え系は「ロリコン」という不道徳性を常に抱え込んでいる(ように見える)ために、いまだに従来の保守からも攻撃対象になりやすい。

従来の保守と萌え系保守の根本的な違いは、従来の保守が精神的な「成熟」を志向するのに対して、萌え系保守が未成熟を良しとして全面肯定している点にある。だからこそ、女性を「未成熟側」に置き、かつ「母性」という役割を課すといったことを極端に嫌うフェミニズムにとっては、萌え系が不退転の敵になりうる。

仁藤氏や太田氏が萌え系を徹底批判したのは、フェミニズムにとっては不退転の敵である萌え系が役所や地方で大きく浸透したことに危機感を持ったからでもあるのだろう。

■「萌え系vsフェミニズム」を象徴する出来事

現代が男性優位社会であることは真実であり、世界がリベラル化に流れる中でフェミニズムが受け入れられる環境は整いつつある。政府も自治体も今後はフェミニズムに沿った政策を進めていくだろう。

ただ、萌え系が社会に浸透していく中で、萌え系を駆逐しようとするフェミニズムは、萌え系側にとっては「表現の自由の敵」である。その点で、象徴的な出来事が最近起こっている。

上述した仁藤夢乃氏が主催する困難少女支援団体Colaboに、会計不正があるのではないかとツイッター上で指摘しはじめられたのである。それを先導したのがゲームクリエイターとして活動する暇空(ひまそら)茜(あかね)氏である。

暇空氏はColaboが所有するマイクロバスタイヤに関して「古いタイヤを使っているのに、2018年に請求しているのはおかしいのではないか」とツイッター上で追及する。それに対して、Colabo側は衆議院議員会館で大々的に記者会見をして反論、誹謗(ひぼう)中傷などを理由に暇空氏を提訴するという対応を見せている。

暇空氏は、かつて金銭トラブル最高裁まで戦って勝利した経験があり、このColaboの提訴に対して全面対決の姿勢を見せて、反対に関係者の提訴を開始、ツイッターのほかnoteYouTubeなども駆使してさらに追及の手を強めていった。

■なぜColaboの会計不正疑惑を糾弾するのか

その過程で多くの支援者が集まりはじめ、ツイッターのフォロワーは一般人としては珍しく20万人をはるかに超え、裁判費用を募ったところ8000万円もの金額が集まった。ハードルが高いといわれる住民監査請求もなんなく通して、Colabo側の会計が杜撰なものであったことを暴き出す。

同時に、同類のNPO団体も同じような杜撰な会計をおこなっていると次々と看破して、その疑惑は赤い羽根共同募金に及んでいる。暇空氏はたぐいまれな行動力の持ち主であり、平均的ジャーナリストなど相手にならないほどの洞察力を備えていることが明らかになる。私が観察したところ、暇空氏はツイッターなどネットの性質を熟知しており、情報戦にも長けている。

40代男性の暇空氏のツイッターアカウントは「アニメアイコン」が使われており、仁藤氏を追及するきっかけに温泉むすめの一件があったことにも言及していた。

萌え系側に属することは間違いない暇空氏の言動のコアに会計不正疑惑(暇空氏はこれを「公金チューチュースキーム」と呼ぶ)に対する怒りがあるのは確かだが、その行動原理が単なる正義感ではなく、世界の潮流の中で行政も味方にしているフェミニズムによって、自分たちが獲得した表現の自由を脅かされていることへの怒りにあるのではないだろうか。

■どちらの表現の自由を認めるべきかという戦い

かつては石原が象徴するように、保守は権力、左派は反権力だった。だが、本人たちがどう考えようと、フェミニズムリベラル化の流れの中で言論を抑圧しうる1つの権力となりつつある。萌え系保守はそれに対する対抗勢力であり、その対立において有効な戦い方を示したのが暇空氏である。暇空氏は萌え系が新しい保守のあり方として成立する過程で誕生したニュータイプヒーローであるというのが私の見方だ。

この対立は、秩序破壊(フェミニズムにとっては「アンシャンレジーム破壊」)のための表現と、萌え系という伝統的女性観のサブカルチャー手法による表現の、どちらの表現の自由を認めるべきかという戦いでもある。

この対立がどのようなエンディングを迎えるかはわからないが、これまでブラックボックス化していたパンドラの箱が暇空氏というトリックスターによって開けられたことで、多くの者が次はどうなるのかと、アニメの続きを待ちわびるように関心を寄せている。私もその一人であるが、傍観者でいるつもりはなく、今後も現場で従来の保守側の立場から発信し続けるつもりだ。

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白川 司(しらかわ・つかさ
評論家・翻訳家
国際政治からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。『月刊WiLL』にて「NonFake News」を連載、YouTubeチャンネルデイリーWiLL」のレギュラーコメンテーター。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評。著書に『14歳からのアイドル論』(青林堂)、『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック)ほか。

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2011年4月の東京都知事選で4選を決めた石原慎太郎氏 – 写真=EPA/時事通信フォト

(出典 news.nicovideo.jp)

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