あわせて読みたい
【東京新聞】現代の街角で放たれた、100年前の朝鮮人虐殺を想起させる言葉…「差別の大衆化」を辛淑玉さんが危ぶむ
今夏の参院選では、当時の差別扇動を想起させるような言葉が飛び交った。人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉(シン・スゴ)さん(66)は「差別が大衆化している」と排外主義の広がりを危惧する。
攻撃の標的とされながら差別にあらがってきた辛さんが今、訴えたいこととは―。(森田真奈子)
◆聴衆たちの言動に「一線を越えた」
7月の参院選、辛さんは、ある動画に背筋が凍る思いがした。
動画は、首都圏の参政党の街頭演説会場を映していた。
「10円50銭って言ってみな」(※発言そのまま)
聴衆の一人が、党の主張に抗議する人たちに対して、そんな言葉を投げつけていた。
関東大震災直後、「朝鮮人が放火した」「井戸に毒を入れた」といったデマを信じた人たちは、朝鮮人には発音しづらいとされる「15円50銭」と言わせて、日本人か朝鮮人かを見分けようとした。
102年前の悲劇が忘れ去られ、虐殺を想起させる言葉がからかい半分で使われていることに衝撃を受けた。しかも、ただ演説を聴きに来たような普通の人の口から。
「一線を越えたと感じた」
◆虐殺逃れた祖母は悪夢にうなされた
参院選中には、支持者が抗議する人に「おまえ何人?」「日本人じゃないだろ?」と笑いながら暴行する事件も起きた。
「日本人じゃなければ何をしてもいいという脅迫が街中でばらまかれている」
相手を敵だとみなした時に何が起きるか。その恐ろしさを在日コリアン3世の辛さんは身をもって味わってきた。
関東大震災時の虐殺を生き延びた祖母の姿は、今も忘れない。
夜中に突然起きると「ほうき持ってこい」と叫び、鉄鍋を持って歩き回った。「日本人が追いかけてくる」という悪夢にもうなされ続けた。
◆「政治による差別扇動、ずっと続いてきた」
最近の排外主義的な主張の広がりには驚く一方で、こう強調する。「政治による差別扇動は今に始まったわけではなく、ずっと続いてきた」
辛さん自身も、これまでいわれなき差別やデマにさらされてきた。「ヘイトクライム(差別感情に基づく犯罪)も何度も受けてきたのに、その傷はないことにされてきた」という。
「差別の扉を開いた」と振り返るのは2000年。石原慎太郎都知事(当時)の「三国人」発言だ。
石原氏は「不法入国した多くの三国人、外国人の凶悪な犯罪が繰り返されている。震災が起きたら騒擾(そうじょう)も予想される」と発言した。
「外国人を殺せという扇動だ」と危機感を覚えた辛さんが、知事の辞職を求める運動の先頭に立った。
すると経営する会社に、大企業の幹部や医師などから実名で「外国人は出て行け」などのFAXが数多く届いた。「本当に驚いた。上からの差別のお墨付きの影響力は絶大だった」
◆ヘイトに加担する国会議員も
2002年に北朝鮮が日本人拉致を認めた後には、拉致と何の関係もないのに、数え切れないほどの嫌がらせを受けた。周りの在日コリアンも被害に遭い、300件以上の相談を受けた。
記者会見を開いて弱者に攻撃が向く危険性を訴えたが、メディアは一社も記事にしなかった。「あの時から被害の訴えは見捨てられ続けてきた」
2014年の東京MXテレビの「ニュース女子」では、沖縄の基地反対運動の「黒幕」とデマを流され…
以下会員記事 残り 1023/2554 文字
■関東大震災時の朝鮮人虐殺
内閣府の中央防災会議が2009年にまとめた報告書によると、1923年9月1日の午後から「朝鮮人の放火」といったデマが出始め、内務省なども一時、拡散に加担した。2~6日ごろ、住民の自警団や軍隊、警察によって朝鮮人や中国人らが殺害された。殺傷事件での朝鮮人らの犠牲者は、震災全体の死者約10万人の1~数%で、1000~数千人としている。
東京新聞 2025年9月1日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/432368
https://static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/f/9/1/1/f91135ced3ca60a5212de5c3607cf70f_1.jpg