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【アホの東京新聞/社説】対馬の仏像返還 「日韓融和」の象徴たれ
13年に窃盗犯の拘束と、仏像の回収が発表された。だが、韓国の浮石寺(プソクサ)が、仏像は14世紀に日本人主体の海賊である「倭寇(わこう)」が、同寺から略奪したものと主張。韓国政府に同寺への引き渡しを求め、16年に韓国で訴訟を起こした。
一審は、浮石寺への引き渡しを命じたものの、高裁は一審判決を取り消し、観音寺の所有権を認定した。浮石寺は最高裁に上告したが、最高裁は棄却した。
対立感情を越え、「法治」という日韓共通の基盤を示した判決を受けて、融和の機運が進んだ。今年1月に韓国政府が返還手続きを行うと、観音寺が浮石寺に仏像を一時貸与する形で、浮石寺での法要や一般公開が行われた。
そもそも、人々の素朴な信仰心のよりどころとなる仏像を巡り、日韓両国の間に争いが起きたことは、歴史の悲しむべき一幕だ。
だからこそ今月10日、浮石寺で行われた仏像の引き渡しの後、同寺の円牛(ウォンウ)住職と、観音寺の田中節孝前住職が、固く交わした握手の意味は重い。何かにつけ問題の生じやすい日韓関係の中で、2人の宗教者が見せた矜持(きょうじ)でもあっただろう。
「倭寇」など歴史のかなたの出来事のようだが、箴言(しんげん)にも「他人の足を踏んだ者は忘れても、踏まれたほうは痛みを忘れない」とある。両国の友好を定着させる上でも、16世紀末の朝鮮出兵や、明治期の韓国併合以降の日本による植民地支配で、韓国の人々に苦痛を与えた過去を軽く見るようなことがあってはなるまい。
今年は、1945年の敗戦で日本の韓国統治が終わってから、ちょうど80年の年でもある。韓国では今、政治騒乱を経て、新大統領選びが進む。今後も日韓の善隣関係と融和を進展させるためにも、この節目の年に返還なった「観音様」がその象徴になればと願う。
東京新聞 2025年5月22日 08時04分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/406489?rct=editorial