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【朝日新聞/社説】徴用工問題 外交で「待った」かけよ 双方が妥協できる解決案を
判決により、日韓の政府間対立は先鋭化し、経済や安全保障問題にまで飛び火した。
外交がいまだ解決の糸口すら見いだせないなか、韓国の司法は9月、日本企業が保有する資産の売却を命じた。
手続きとしては資産現金化のカウントダウンに入ったと指摘される。強制執行となると日本政府は報復措置をとる構えだ。そうなればさらなる関係悪化は避けられない。
待ったなしの状況に日韓両政府は、これまで以上に外交努力を尽くさねばならない。
判決後、韓国内で同種の提訴が相次いだが、最近は訴えが退けられる事例が目立つ。韓国では被害者らが損害を認識し、一定の時間が経てば請求権は消えるとされるためだ。
両政府ともこれまで、原告数の際限のない増加を警戒してきた。だが、新たな訴訟の可能性が低まったことを機に、政府間協議を活性化するべきだ。
韓国側では、いかに危機を回避するかをめぐり、実現可能性がある議論が出始めている。
例えば先月の国会委員会では与党の重鎮議員が、韓国政府による「代位弁済」に言及した。韓国政府が被告の日本企業に代わって原告に賠償金を支払い、その後に日本側に請求するという方策である。
委員会にオンライン参加した姜昌一(カンチャンイル)・駐日大使も「いいアイデアだ」と賛意を示した。同種の一時的な肩代わり案は韓国政府内で検討されてきたが、正式な提案には至っていない。
これらの案を含め、外交当局間で話し合い、知恵を絞れば、双方が妥協できる解決案を探すのは不可能ではあるまい。
ただ、どんな妙案でも、韓国政府が原告側を粘り強く説得せねばならないし、また、その環境を整えるためにも日本政府が植民地支配という歴史の問題に謙虚な姿勢をとり続ける必要がある。
日韓の政治状況を考えても、早期の事態打開が望ましい。
岸田政権は先月の総選挙で絶対安定多数を確保したものの、来年夏には参院選を控える。韓国は、来年3月の大統領選に向けた動きが活発化している。
これまで日韓間の徴用工問題の協議は平行線をたどったが、それでも互いに何を重視しているかなど、一定の理解は深まっている。韓国の新政権と一からの協議となれば、さらに時間が費やされることだろう。
現政権同士に残された時間は少ない。不毛な対立を長引かせず、真の未来に向けた関係を築く政治の責務を果たすときだ。
朝日新聞 2021/11/7 5:00
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15103563.html?iref=sp_rensai_long_16_article