あわせて読みたい
【朝日新聞/社説】米国とアジア 力の対抗より共存探れ
その言葉どおり、大国間で陣営を争う外交ではなく、相互依存と信頼に基づく包摂の秩序づくりに尽力してほしい。
クアッドと呼ばれる日米豪印4カ国の枠組みは、その試金石だ。中国を「最も重大な競争相手」とみる米国が主導し、今回は対面の首脳会議を開いた。
国連でバイデン氏は、インド太平洋地域への関与を優先し、同盟国や友好国を重んじる方針を示した。4カ国の首脳会議はその結束を演出したものだ。
トランプ前大統領は、アジアの国際会合にはほとんど出席しなかった。対照的に、米国が地域との関係を深める姿勢に転じたことは評価したい。
一方、新たな「同盟重視」はどれほど真剣か、地域の安定に米国がどこまで責任を負う覚悟か、疑念もぬぐえない。
それを痛感させたのが、アフガニスタンからの米軍撤退だった。同盟国との調整は乏しいまま強行され、結局、バイデン外交も「米国第一」ではないか、との不信を広げた。
そんな折、米国は英豪との3カ国の安全保障枠組みも立ち上げた。豪州の原子力潜水艦建造への協力を発表したが、逆に契約を破棄されたフランスの怒りを買った。ここでも事前の調整がなかったようだ。
米国がアフガニスタンで失った威信の挽回(ばんかい)を太平洋地域で急いでいるのならば、危うい。周到な意思疎通を欠く外交では、健全な同盟関係は保てない。
中国への牽制(けんせい)に、前のめり感が目立つのも懸念材料だ。豪州の唐突な原潜配備は地域の軍事情勢に相当の影響を及ぼす。
中国の軍拡と強引な海洋進出が緊張を高めているのは確かだが、対抗的な行動は慎重さを要する。単に力を競うだけでは、さらなる環境悪化と分断をもたらしかねない。
多くのアジア太平洋諸国は、近接する大国・中国との対立を望まない。中国との共存共栄を最善のシナリオと考えるのは、日米豪印も同じである。
バイデン氏は国連で「戦争の時代は幕を閉じ、外交の時代が始まった」とも述べた。ならばクアッドも軍事機構と一線を画し、地域の公益を求める連合体として活動していくべきだ。
4首脳は今回、新型コロナのワクチン供給を筆頭に、気候危機やインフラ開発などへの取り組みを強調した。毎年首脳会議を開くことでも合意した。
人権や法の支配などの原則の下でアジアの平和的発展をめざし、中国を巻き込む秩序を形成する。そんな建設的な枠組み運営を心がけてもらいたい。
朝日新聞 2021年9月26日 5時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S15056055.html?iref=pc_rensai_long_16_article