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【朝日新聞/社説】自民党総裁選 外交の知恵を競い合え
当初予算で7年連続、過去最大を更新している防衛予算について、さらなる増額を明確に打ち出しているのが高市早苗前総務相だ。人工衛星の破壊や無人機による攻撃など、新たな脅威をあげ、現状の5兆円余りでは「とても足りない」という。
安倍前首相が意欲を示した敵基地攻撃能力についても、それを可能とする法整備を掲げた。専守防衛から逸脱し、軍拡競争につながる懸念がある。岸田文雄前政調会長は、第1撃を防げなかった場合でも、第2撃への牽制(けんせい)になるとして、「選択肢」との考えを示したが、発射場所を正確に探知するのは容易ではない。どこまで現実性のある提案と言えるだろうか。
中国の軍備拡張や現状変更の動きに対する警戒感は、各氏におおむね共通する。河野太郎行政改革相と岸田氏は、民主主義や人権、法の支配といった価値観を共有する国々との連携を強調。技術やデータ、人材の流出などを防ぐ経済安全保障については、高市氏が「包括法」、岸田氏が「推進法」の制定と担当閣僚の新設を表明した。
一方、野田聖子幹事長代行は文化や価値観、外交政策による「ソフトパワーが日本の持ち味」と指摘。米中双方と関係が深い立場を生かし、対立を収める仲介役を果たすべきだとした。河野氏は日中の人的交流の意義をあげ、首脳会談の定期開催に言及した。対話を踏まえた総合的な戦略を競って欲しい。
片や、日韓関係について、改善に向けた具体的な議論がないのは、どうしたことか。6年前の両政府の慰安婦合意の際、外相だった岸田氏は「日本は合意の中身をすべて実行した」として、「ボールは韓国にある」という。岸田氏の後任の外相だった河野氏も、歴史問題では同様の立場だ。北朝鮮対応ひとつとっても、日韓両政府の緊密な連携は欠かせない。相手任せにせず、日本側からも打開の道を探るべきではないか。
総裁選でまだしっかり語られていないテーマのひとつに、沖縄の基地問題がある。県民投票などで繰り返し示された普天間飛行場の辺野古移設ノーの民意を、安倍・菅両政権は完全に無視してきた。米兵らによる犯罪や環境汚染も後をたたない。この問題に正面から向き合うことは、日本の安全保障を考えるうえで避けて通れない。
朝日新聞 2021年9月21日 5時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S15050294.html?iref=pc_rensai_long_16_article