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【宇宙】大量の衛星打ち上げで「宇宙ごみ」が激増中 高まる事故リスク 専門家「もはや制御不能」
しかし、低軌道にひしめく多数のスターリンク衛星は、他の衛星事業者の頭痛の種になりはじめている。
その原因は、頻発する近接事故だ。スペースデブリ(宇宙ごみ)問題の権威である英サウサンプトン大学のヒュー・ルイス教授は、スターリンク衛星と他の衛星あるいは宇宙船との近接インシデントが非常に多く発生していると指摘する。
その数は週あたり1600件にも達するといい、全近接インシデントの半数を占める計算だ。
大半はスターリンク衛星同士の近接だが、他の衛星事業者が運用する機体との近接も週に500件ほど発生している。
監視のみで済むケースが多いものの、危険水準にまで接近するケースも最大で週に10件ほど発生しており、
相手側の衛星事業者は回避のための軌道操作(マヌーバ)を余儀なくされている。
宇宙開発の進展に伴い、宇宙ごみはすでに深刻な問題となっている。
アメリカの宇宙監視ネットワークはレーダーと光学によって軌道上の衛星とデブリを追跡しているが、監視対象は10センチ角以上の物体だけで3万個に及ぶ。
小規模なものも含めると、50万個のデブリが現在地球を周回している。
あまりの数に、専門企業による追跡も限界に達しつつある。
宇宙空間の交通管制サービスを提供する米ケイハーン・スペース社のシーマック・ヘザーCEOは、
米宇宙情報サイトの『Space.com』に対し、「この問題はまさに制御不能の域に達しつつあります」と懸念を示している。
■過去には深刻な事故も
ひとたび衛星の衝突事故が起きれば大量の宇宙ごみを撒き散らし、他の衛星に深刻なダメージを与えかねない。
広大な宇宙空間での衝突はあり得ないようにさえ思えるが、大規模な事故は実際に起きている。
2009年には米イリジウム・コミュニケーションズ社のコンステレーション衛星とロシアの軍事衛星が衝突し、史上最悪のインシデントとしてのちに知られることとなった。高度約800キロで衝突した2基は大きな破片だけで1000個以上を撒き散らし、その後も同エリアを通過する他の衛星に損傷を与えている。
これとは別に、今年3月には中国の雲海1号02星が突如崩壊したが、原因はスペースデブリとの衝突であったことが今月に入って判明している。
スペースXとしても予防策に無関心なわけではない。
同社はスターリンク衛星の電源と推進システムを多重化し、安全性を確保していると説明している。
緊急時にはスターリンク側での回避操作も可能であろう。
しかし、ケイハーン社のヘザーCEOは、一般的に回避操作は衛星の貴重な推進剤を消費することから、頻繁に行うことはできないと指摘する。
衛星の位置測量システムには誤差があるため、衝突の警告はある程度の余裕をもって発せられる。
オペレーターは衝突の危険度と人的リソースの状況、そして推進剤の消費を天秤にかけ、実際には回避操作を行わないという判断を下すことも多々ある。
格安かつ高速ネット環境を標榜するスターリンクだが、大量の衛星投入によって事故のリスクは着実に増大している。
その代償は将来、同社にとって想定外に高くつくかもしれない。
NEWSWEEK
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