夏も本番間近の2024年6月10日。太陽が見えない曇り空で蒸したような暑さを感じるなか、青森地方裁判所の第1号法廷で開かれた裁判は、気付くと予定よりも30分以上、審理が引き延ばされていた。
証言台では弁護士の問に対して、被告の男がぼそぼそとつぶやいている。
「嫌がっているのは分かっていたが、自分の意思の弱さから、興奮しちゃってました…」
黒に青色のラインの入ったジャージを身にまとい、眼鏡とマスクを着用して入廷してきた中肉中背の男は、終始、小さくうずくまるような猫背だった。一見物静かそうで、おとなしそうなこの男が犯した罪は、電車内でのわいせつ行為。いわゆる“痴漢”の一種だった。
被害者は多感な時期を迎えていたであろう16歳の女子高校生だ―。
(略)
■男の性癖がまざまざと語られる…
その内容は、実に生々しいものだった。犯行前日に自慰行為をしながらスマホで見たAV(アダルトビデオ)がきっかけで、女性が嫌そうになることに興奮を覚え、同様のことがしたくなったことから犯行に至ったこと。犯行時には、自身の興奮した状態の股間部分の形をしっかりと出すために、薄手の黒いズボンを履いていたこと。「嫌だよな。気持ち悪いよな。」と思いながらも興奮していたこと。被害者の手に股間を押し付けた際に、尻よりも気持ちいいと思ったことなど…。
被告の男の性癖がまざまざと語られた。
また、男は「ADHD(注意欠如・多動症)」であり、障がい等級2級であることや、過去に県内のスーパーで同様の痴漢をしたり、コンビニエンスストアで店員に下半身を見せつけたりして、罰金刑を命じられ『前科二犯』だったことなども語られた。
■恐怖の犯行当時の様子…
検察側からは、被害者への聞き取りで分かった犯行当時の恐怖の様子も明らかにした。
満員に近い状態の電車内で、友人といる際に男が乗って来て、股間が異常に盛り上がっていたこと。「はぁ、はぁ…」と荒い息をしながら後ろに近づいてきて、尻の真ん中あたりに固い何かをあてられたこと。逃げたものの追いかけられ、手に股間を押し付けられたことなど。
その後、被害者は満員電車自体や、被告の男のような年代の男性を見るだけで恐怖を覚えるようになったとした。
■「ADHD」の男… 普段は真面目だった
裁判は進み、その後の証人尋問などによると、男は「ADHD(注意欠如・多動症)」で、障がい等級2級であることから普段はグループホームで生活を送っていたことが分かった。
また、就労先で作業員として働く様子は、至って真面目で、穏やかだったという。
「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害のひとつ「ADHD」。その特性の1つに「1つのことに集中しすぎてしまう」ことがあるとされ、もしかするとその特性が今回の犯行とも関係しているのではないかとされた。
被告人質問にうつると、男の言葉で、被害の全容や現在の思い、また、自身の障がいである「ADHD」が犯行に影響したと思うのかなどが語られた―。
■「私は欲望に負けてしまいブレーキがききませんでした」
弁護人の質問に男が答える。まず、罪については「認めます」と一言。続いてその原因について聞かれると、「自分の欲求に対する甘さ」があったとした。1つのことに集中してしまう部分があり、アダルトビデオを見て「やりたい」と思った。弁護人の話だと警察の取り調べのなかでは、「私は欲望に負けてしまいブレーキがききませんでした」と述べていたようだ。
自身の障がいである「ADHD」が犯行に影響しているかを問われると、「していると思う」「自分を押さえられないことがある」と男は述べた。
「ADHD」が犯行に影響したと答えた男に弁護人が続ける。「今後も同じようなことをしてしまうのではないですか?」。この質問に男は、今後は自分の心をしっかりと戒め再発防止をしたい旨答えた。
■「自分の意思の弱さから興奮しちゃってました」
犯行については、起訴内容と同じことを語った。AVを見て自分もやってみたいと思い、その軽い気持ちの欲求が抑えることができなかったと。また、女性が嫌がっていたことは分かっていたが、あとになってから可哀そうだと思った。音楽を聴きながら股間を押し付けた。…などと男は続けた。
「嫌がっているのは分かっていたが、自分の意思の弱さから興奮しちゃってました」という言葉がとても強く頭に残っている。