<医療の値段・第3部・明細書を見よう>(7)
「大変言いにくいことを私が代表して言わせていただきます」。2022年1月、医師の偏在対策を話し合う政府の「医療従事者の需給に関する検討会」。すべての病院の経営母体が参加する日本病院会会長の相澤孝夫はそう切り出した。
◆診療所は病院の10倍以上、勤務医が不足している
「今、病院は数も減り、ベッド数も減っているのにもかかわらず、開業医の先生、診療所は毎年増えています。開業医の方が減って困るという話はあまり聞こえてきません」
日本の医療施設は病院が8000余りに対し、歯科を除く診療所は10万を超す。相澤は開業医から勤務医へのシフトを提案した。
「住民2000人を大体一つの診療所でカバーできる。日本の人口は1億2000万人なので、6万カ所あれば、かかりつけ医機能は果たせる。すると4万人余るのです。4万人の方が病院に勤めてもらえば、かなり勤務医の不足は解消される」
◆忙しすぎて平均年収も低い勤務医は人気薄に
診療所の増加の理由をある大学病院の医師は言う。
「診療所の方がもうかるし自由になる時間もあるので、卒後10年くらいで開業する医師が増えている。大学や大病院の勤務医は忙しすぎて、魅力を感じる中堅が少なくなっている」
厚生労働省の22年度調査で、診療所の病院長の平均年収は2636万円。民間病院の院長の平均(3021万円)より低いが、公立病院(2088万円)や国立病院(1908万円)よりはるかに高い。
その診療所の収入の柱となっているのが初・再診料と、高血圧・糖尿病・脂質異常症の三つの生活習慣病にかかる医学管理料だ。
たとえば毎日20人の患者に特定疾患療養管理料(2250円)を月1回ずつ算定(請求)したとすれば、月20日の診療で売り上げは年1080万円。通常は他に再診料や外来管理加算、処方箋料、特定疾患処方管理加算もかかるので、年間の売り上げは計算上2323万円となる。月2回の算定なら2倍近くなる。
「患者の状態が安定していれば2週間おきに来させる必要はない」と東京都内の開業医。自院の患者の半数は2カ月処方という。6月から3疾患の新しい管理料の算定は月1回までとなったが、診療所などによっては長い間、過剰な診療が見過ごされ、医療費を押し上げてきたことになる。
◆「開業医はやり方次第ですごく収益が上がる」
日本の医療制度は、医療行為ごとに報酬を積み上げる「出来高払い」が基本のため、医学的には必要以上に過剰な医療提供を招きやすい構造となっている。
また、自由に開業でき、好きな診療科を掲げられる「自由開業・標榜(ひょうぼう)制」のため、病院の10倍以上も診療所があるだけでなく、地域や診療科ごとの医師の偏在にもつながっている。都内の別の開業医は言う。
「開業医はやり方次第ですごく収益が上がるしくみです。(診療報酬を積み上げる)出来高払いだから。だから(病気や病状ごとに定額の)包括式にするとか、考えた方がいいと思う」
年50兆円に迫ろうとする国民医療費。国民の保険料や税負担は増え、将来世代へのツケも膨らみ続ける。加速する少子化で、今のままでは制度は持たない。さらに負担増となる前に、医療費のムダをなくすいっそうの改革が必要だ。
=終わり
2024年度診療報酬改定 医療従事者の賃上げを図る目的で、6月から初診料は30円増の2910円、再診料は20円増の750円になり、入院基本料は病棟の種類に応じて1日当たり50~1040円上がった。診療所が看護師ら職員のベースアップ(ベア)をする場合、さらに初診時に60~700円、再診時に20~100円を段階的に加算できる。3割負担の患者の窓口支払額は初診で9~219円増える。