弁護士JP編集部 2024年05月24日 10:18
弱者男性は経済と恋愛、コミュニケーションの面で“排除”されている(Fast&Slow / PIXTA)
近年、「弱者男性」がインターネットを中心に注目を集めている。
4月にライターのトイアンナ氏が出版した『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)はAmazonの「売れ筋ランキング」の上位に入り、X(旧Twitter)でも話題になった。
『弱者男性1500万人時代』の帯文にもコメントを提供している元プロゲーマーの「たぬかな」氏は、昨年10月に「弱者男性合コン」 を主催した。一方で彼女は男性に対する暴言を多々行っていることでも知られており、2022年には「170cmない男に人権ない」 発言が問題視され、4月にも問題発言が原因 でスポンサー契約が1件解消されたという。
「弱者男性」は「チー牛 」(いわゆる「オタク」の男性を侮辱的に呼称するネットスラング)と同様の差別用語であると批判する男性たちもいる一方で、社会に対する問題提起を行うために「自分たちは弱者男性である」と積極的に発信する男性たちもいる。
なぜ、近年になって弱者男性が議論されるようになったのか。2023年にオンラインでも公開された論考「ひろゆき論――なぜ支持されるのか、なぜ支持されるべきではないのか」 が話題になり、2022年には論考「「弱者男性論」の形成と変容 : 「2ちゃんねる」での動きを中心に」を発表した、メディア研究者の伊藤昌亮教授に話を聞いた。
社会から「排除」受ける男性たち
そもそも、「弱者男性」とはどのように定義できるでしょうか。
伊藤教授:まず、「弱者男性」について安直に定義するのではなく、この言葉が表すような男性たちが抱えている問題と、その背景、そしてそれに対応する支援策について、社会的な「合意」を成立させるための議論を行うことが大切だと考えます。
今日の社会は、主に2種類の「弱者性」を定めてきました。ひとつめは「経済的弱者」、貧困者や困窮者であり、高齢者や子どもが含まれることもあります。貧困の問題は戦後すぐから議論されており、経済的弱者については「社会保障などの支援策が必要だ」との合意が成立してきました。
次に、1960年代や70年代からは「差別」を受けている人も弱者であると見なされるようになりました。人種的マイノリティや性的マイノリティ、女性などです。日本の場合は部落差別も含まれます。差別の問題についても解決が必要だとの合意が成立し、日本でも1990年代から幅広く人権政策などが実施されるようになりました。
一方で、90年代からは「排除」の問題が注目されるようになりました。排除は、貧困や差別の対象となっている人にも、そうでない人にも起こり得ます。
弱者男性の問題について合意を成立させ、支援策を考えるためには、男性たちに生じている「排除」を考える必要があるのです。
具体的には、男性たちにはどのような「排除」が生じているのでしょうか。
伊藤教授:ひとつの原因は、産業構造や経済状況の変化により、戦後の日本で前提となってきた「日本型福祉社会」モデルが崩れたことです。
日本型福祉社会は「男は正社員、女は専業主婦」とする性別役割分業を前提にしていました。正社員となった男性は過酷な労働を続けて、その妻となった女性が家庭に入り夫や子・親のケアを行う代わりに、企業が社員の家族ごと経済的に面倒を見るというシステムです。
このシステムが成立している間は、日本は社会保障費を抑えつつ豊かな福祉を実現することができました。しかし、システムが崩れた後は社会保障や公的な福祉制度の不足が浮き彫りになりました。また、財界が派遣労働・非正規労働を拡大したことにより、さまざまな問題が生じたのです。
「モテない、職がない、うだつが上がらない」