最大60枚
「作業は簡単で準備や技術は要らない。5分もあれば1枚作れる」。マイナカードを偽造したとして、警視庁に昨年12月、有印公文書偽造容疑などで逮捕された中国籍の女(27)(1審で懲役3年、控訴中)は東京拘置所でそう語った。
女が偽造に手を染めたのは昨年6月頃。生活費に困り友人に相談すると「カードを作る仕事」を紹介された。中国のSNS「微信(ウィーチャット)」で「ボス」に連絡し偽造法の説明を受けると、作業用のパソコンとプリンターが自宅に届き、個人情報がメールで送られてきた。
作業は偽のICチップが埋め込まれた白いカードの表裏に個人情報のデータを印刷するだけ。多い時には1日約60枚のカードを偽造して指定された国内の住所に郵送した。日当は約1万2000~1万6000円相当の電子マネーだった。
警視庁は指示役が中国にいるとみて捜査。同じ仲間からの依頼でマイナカードを偽造した疑いで、今月15日、中国籍の2人を有印公文書偽造容疑などで逮捕した。偽造カードが携帯電話の契約などに使われた可能性があるとみている。
1万~2万円で売買
2016年に運用が開始されたマイナカードは今年4月末時点で国民の8割にあたる約9900万枚が交付され、外国人にも約290万枚発行されている。
行政サービス以外の利便性も高く、本人確認の証明書として携帯電話の契約や口座開設などの場面で使われてきたが、確認は目視のみのところも多かったとみられる。全国銀行協会(東京)によると、ICチップの情報を読み取って確認する機器の導入は大手銀行など一部に限られる。
昨年3月には、東京都葛飾区の携帯電話販売店で偽造マイナカードを提示し、スマートフォンを不正契約しようとしたとしてベトナム国籍の男が警視庁に逮捕された。偽造マイナカードは中国語やベトナム語のSNSで1万~2万円で売買されているといい、警視庁幹部は「発覚している不正はごく一部だろう」と語る。
外国人組織
外国人らが使う偽造の証明書はかつて、3か月を超えて滞在する場合に交付される「在留カード」が主流だった。警察庁によると、20年には偽造在留カード所持などの摘発が790件に上った。このため出入国在留管理庁は同年、カードの真偽を判別できるアプリの提供を開始。公的機関や技能実習生の受け入れ企業などで活用が進んだ。
一方、マイナカードは表面の一部に特殊な印刷技術を使うなど偽造対策が進んだこともあり、総務省は判別ソフトの利用を呼びかけてこなかった。相次ぐ偽造発覚を受け、同省とデジタル庁は今月17日、偽造品の見分け方を示した文書を民間業者向けに周知した。
警視庁は、在留カードを偽造してきた外国人組織が、マイナカードに目を付けて偽造と販売を拡大しているとみて警戒している。
スマホ 知らぬ間に機種変更…都議10万円被害
偽造マイナカードで携帯電話を乗っ取られる被害も出ている。立憲民主党の東京都議(51)は4月17日、決済アプリ「PayPay(ペイペイ)」の運営会社から「パスワードリセットのお知らせ」という身に覚えのないメールを受け取った。
スマートフォンで通話できなくなり、携帯電話販売店に相談したところ、名古屋市の店で何者かが都議名義のマイナカードを使って機種変更したことが判明。すぐスマホの利用を停止したが、ペイペイや携帯会社の決済サービスで計約10万円分が使われていた。
名古屋市の販売店は何者かが提示したマイナンバーカードを目視でチェックしただけだったという。都議は「マイナカードで顧客の身元を確認している事業者は、ICチップで判別する機器の導入や別の本人確認書類での確認も進めるべきだ」と話した。