2024/5/14 08:00 石毛 紀行
日本自動車連盟(JAF)が調査している、信号機のない横断歩道での「車の一時停止率」が8年連続日本一の長野県。最新の令和5年調査で84・4%。全国平均45・1%に比べ明らかに多い。本当に長野の車は止まるのか、その理由は何か。取材してみると、日本一ゆえのジレンマがあることもわかった。
横断歩道に立ってみると…
JAFは調査場所を公表していないが、条件は示している。センターラインのある片側1車線の道路▽5メートル以内に十字路、丁字路がない▽交通量1分間に3~8台目安▽制限速度時速40~60キロ程度-などだ。条件に近い横断歩道を長野市内で見つけ、4月中旬の曇りの日、午後3時ごろ、実際に渡ってみた。
乗用車が数十メートルに近づいたところで横断歩道に歩み寄り、道路の左右をうかがうと、1台目の車がさっそく止まった。右からだけでなく、左からの車も。意図が伝わった感動で、運転手にお辞儀して渡ってしまった。
偶然かもしれないと思い、この車が見えなくなるのを待ってから、同様に10回程度繰り返した。止まらなかった車が3台あったが、その後続車はすべて一時停止。全国11都府県に住んだが、これほど止まってくれる経験は初めてだ。
歩行者の目線
停止率の高さの背景には、交通安全教育があるのではないかと思い、4月下旬、長野市立湯谷小学校で行われた、1、2年生を対象とした交通安全教室を見学してみた。
県警の元交通巡視員で市から委嘱された交通安全教育講師の北原さつきさんと樋口ひろみさんが腹話術人形を使って指導した。
「横断歩道は右手を高く挙げて。運転手さんからよく見えるようにね。止まってくれたら何て言うの?」
児童たちから「ありがとうございました」の声が返ってくる。
「ちゃんとお礼を言って渡り始めます。運転手さんは『止まってよかったな。次も止まろう』という気持ちになります」と伝えた。
続けて「でも、横断歩道さえ渡っていれば絶対大丈夫とは思わないで。あの車止まってくれるだろうなとは思わないで。止まるのを待ってから渡ります」と念を押した。
安全教室後、北原さんは「運転手に感謝の気持ちを伝えると、運転手も気持ちいい。50年以上前、私もそう教えられました。子供のとき止まってくれた経験が、自分でハンドルを握るようになったとき、止まろうという意識になるのではないでしょうか」と話してくれた。
運転者の目線
横断歩道を歩行者が渡ろうとしていたら、車が止まるのは義務だ。道路交通法第38条で「横断歩道等における歩行者等の優先」が定められ、罰則規定もある。ところが、84・4%で日本一の長野県も、裏を返せば15・6%が止まっていないことになる。
JAF長野支部で一般企業などの安全運転管理者講習を担当するJAF認定セーフティーアドバイザーの塚越直誠さんは「横断歩道の手前30メートルと50メートルにはダイヤマークの路面標示があります。ドライバーにはこれに早く気づいて、歩行者を思いやる運転をしてほしいと伝えています」と話す。
「日本一」ゆえのジレンマ
県警のまとめによると、令和5年中、道路横断中の歩行者と車の事故は363件。このうち(略)