知的障害には大きく3つの要因がありますが、ほとんどは、次の(1)特発性要因に該当します。特発性というのは、原因が特定できないということです。
(1)特発性要因
特に基礎疾患がなく、知的機能が低い場合です。「生理的知的障害」と呼ばれることもあります。多因子遺伝などの関与が考えられています。知的発達症の75%程度が該当し、重症度は軽度の場合が多いです。
(2)病理的要因
染色体異常や先天性代謝異常、出産前後の感染症、中毒、脳外傷などが要因となっている場合です。「病理的知的障害」と呼ばれることもあります。知的障害と、病理的な要因の両方への対応が必要となります。
(3)心理社会的要因
養育環境になんらかの問題があり、学習機会が不足している場合です。極端な例ではありますが、生後まもなく人間社会から隔離されてしまった野生児などが該当します。
基本的には、育て方によって知的障害が起きるということはありません。(3)心理社会的要因には養育環境も関連しますが、これはかなり極端な例です。子どもに知的障害があることがわかったとき、「乳幼児期の育て方に何か問題があったのでは」と悩む方もいますが、そのような責任を感じる必要はまったくありません。
なお、知的障害の多くは、(1)特発性要因で原因は不明ですが、(2)病理的要因が関わっている場合もあるため、医療機関にかかることが大切です。
知的障害と「境界知能」はどう違う?
次に、境界知能について説明します。境界知能は「軽度知的障害よりも少しIQが高い状態」ですが、知的障害とはどう違うのか、ここでもう少しくわしく解説しましょう。
境界知能とは、知的機能が「知的発達症」と「正常知能」の境界域にある状態です。
すでに述べた通り、現在は知的機能をIQだけで判断することはありませんが、目安としては、知的機能の標準偏差(平均値との差、1標準偏差は15)が2低い(30低い)場合を知的障害、1低い(15低い)場合を境界知能と考えることが一般的です。
偏差IQでは平均100、1標準偏差が15なので、おおよその目安として70未満が知的障害、70以上85未満が境界知能に該当すると考えられています。この基準から言えば、偏差IQ85以上は正常知能ということになります。
標準偏差というのは、統計的な考え方です。理論的には、標準偏差が2低いグループは全体の2.3%となります。標準偏差が1低いグループは全体の13.6%です。これは知能検査に限らず、標準偏差を測るすべての検査に共通します。標準偏差を測る検査は、結果がその割合で正規分布するようにできているのです。
ですから、偏差IQを基準として考えた場合には、理論値としては、人口のおよそ14%の人が境界知能に該当することになります。