2024年05月04日 09時39分
「頂き女子りりちゃん」を名乗り、男性から現金を騙し取った詐欺などの罪に問われた20代女性に対して、名古屋地裁は4月下旬、懲役9年・罰金800万円の判決を言い渡した。この女性(以下、りりちゃん)は恋愛感情を悪用して巻き上げた金を新宿・歌舞伎町の店舗で働いていたホストに貢いでいたとされる。
悪質ホスト問題が注目を集めるきっかけともなった事件の1審判決をどう受け止めて、何を汲んでいけばいいのか。歌舞伎町と関係が深い元ホス狂の女性、元ホストの男性、そして女性支援団体の代表者の3人に聞いた。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●元ホス狂「判決理由に引っかかり」
「男性が圧倒的に多い司法の現場そのものだし、判決は『傷つきのある女性』にまったく寄り添う姿勢がない」
「ホス狂」として生きていた時期を経て、今は歌舞伎町で女性支援に携わる希咲未來(きさらぎ・みらい)さん(24)は、名古屋地裁の判決の「欠点」をこう指摘する。彼女は10代最後の2年間、ホストに管理売春をさせられ、少なく見積もっても500万円以上を搾取された。
ホストクラブの実態を知る希咲さんは、男性裁判長が示した判決理由に引っかかりを覚える。
「裁判長は『意中のホストらの売り上げに貢献するために犯行に及び、刑事責任は相当重い」などと示したと報じられています。しかし、私自身の経験から言っても、女性たちはホストに依存するようマインドコントロールされている。
りりちゃんの弁護側は『ホストに利用された被害者的側面もある』と主張したとされていますが、その通りだと思います。裁判長には、こうした点にもっと注目してほしかった」(希咲さん)
判決の理由が言い渡された際、りりちゃんは過呼吸となり、一時裁判が中止となったという。希咲さんは、加害者であるが傷ついてもいるりりちゃんが「司法の場での絶望」を感じ、過呼吸を起こしたのではないかと推測する。
(略)
●支援団体代表「孤立女性のためにどう受け皿を作っていくのか」
NPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新さんは、歌舞伎町で支援してきた女性たちとりりちゃんが重なる部分があると話す。
法人を立ち上げた2020年4月以前から、坂本さんは、歌舞伎町の大久保公園周辺などで客引きをする女性たちに声をかける「アウトリーチ活動」をしてきた。コロナ前は生活困難から来ている女性が目立ったが、次第にホストに貢ぐための金目的で立つ女性が増えた。
りりちゃんは男性を騙して金を巻き上げたが、大久保公園の女性もりりちゃんも「ホスト依存」なのは同じ。さらに坂本さんは「歌舞伎町が自分の世界のほとんどになっている点も問題だ」と指摘する。
女性たちは「推し」のホストを店での「ナンバー1」や「1000万円プレイヤー」にしようと躍起となる。そこに貢献できていることを自らのアイデンティティーの柱とする。時には、他の女性に対するマウンティング材料に使う。
しかし、一歩引いた目で分析すると、ホストのランキングは、店が女性に多額の金を使わせるために導入しているに過ぎない。
筆者は一連の取材で、ホス狂と自称する複数の女性から「私の担当はすごく名が通っている」「看板も出ている有名ホスト」と何度も聞かされた。
ただし、彼女たちがあげた「有名人」は歌舞伎町限定で、正直、ネット検索しないとまったくわからなかった。試しに何人か周囲の友人・知人にたずねても、その反応は「それ誰?」だ。
坂本さんは、女性たちが「歌舞伎町と外の世界のウエイトを50対50、せめて70対30にできれば、かなり価値観が変わるはず」と話す。歌舞伎町を離れようと、本人がその気になれば、レスキュー・ハブのように支援してくれる団体はいくつかある。
「りりちゃんだけではなく、他の当事者についても、歌舞伎町やホストクラブの外に接点がなく、閉鎖された価値観の中でトラブルが起きている。再発防止のためには、ホストクラブや歌舞伎町の外に、女性がつながれる受け皿を作っていく必要がある」(坂本さん)
りりちゃん側は5月1日、名古屋高裁に控訴したと報じられている。