「これじゃ、無料の宿題代行業者が現れたようなものだ」
東京都内の私立中高一貫校の英語科教諭(56)はため息をついた。
昨年度の冬休み、中1の生徒に英語で日記を書く宿題を出したところ、現在完了形など教えていない英文法が使われ、ミスもない「素晴らしい英文」の日記が、何人もの生徒から提出されてきたのだ。
生成AI(人工知能)が使われたことは疑いようもない。
この教諭は「宿題は、英語を使う習慣を身につけ、文法の復習をしてほしいから出してきた。間違いを指摘されて学ぶことは言語習得には不可欠。生成AIが示す『正解』の丸写しから得るものはない」と嘆く。
生成AIへの依存を強める生徒たちの実態を前に、この学校では春休みから英作文の宿題を廃止した。
国立情報学研究所の佐藤一郎教授(情報学)は「学習に後ろ向きな生徒は生成AIに頼り切りになり、思考力や創造力の育成が阻害される。学力格差が広がる恐れがある」と警鐘を鳴らす。
大学での影響はさらに深刻だ。
龍谷大(京都)の野呂靖准教授(仏教学)は昨年7月、ある学生の発表したリポートに違和感を覚えた。
日本語として誤りはないが、内容に具体性がない。
挙がっていた参考文献の著者名は実在の人物だったが、書籍は存在しないものだった。
学生に問いただすと、「文章にまとめるのが苦手で生成AIに書かせた」と認めた。野呂准教授は「拙くてもいいから、自分で考えて書くのが大切」と諭し、やり直させた。
昨年春以降、全国の大学で、リポートなどで許可なく生成AIを使用した場合は不正行為として処分対象になりうるとの注意喚起が相次いだ。
不正が発覚した学生の成績を下げたり、単位を取り消したりした例も、複数起きている。
だが、露見するのは氷山の一角だ。
東京都内の私立大学に通う2年生の男子学生(19)は、「興味がない必修科目のリポートは基本、生成AIに丸投げ。不必要な時間をとられたり、不完全なリポートを出して単位を落としたりしたくない」と悪びれる様子もない。