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有権者が萩生田氏の何に怒っているのかをお伝えする前に、裏金事件における萩生田氏の問題点を改めて確認しておこう。
萩生田氏は自民党安倍派の「5人衆」の1人という重職を担い、派閥からのキックバック──ここでは政治資金収支報告書の不記載額──は2018年からの5年間で2700万円を超えた。額の多さに誰もが驚いたが、実際に党内で3番目という巨額の裏金だったのだ。
自民党は4日、国会議員39人に対する処分を発表した。ところが、岸田派の元会計責任者が立件されているにもかかわらず、岸田文雄首相は“無罪放免”となった。この時点で多くの有権者が強い反発を示した。
さらに萩生田氏に対する党の処分は、8段階のうち軽いほうから3番目という「党の役職停止(1年)」だった。「これでは実質的に処分なしだ」との批判が自民党の国会議員からも殺到したが、それも当然だろう。
他の議員に対する処分と比較してみよう。党則の処分では2番目、今回の処分の中では最も重い「除名」となった塩谷立氏の不記載額は234万円。西村康稔氏は3番目の「党員資格停止(1年)」だったが、不記載額は100万円だった。
萩生田氏は2700万円と裏金の額が突出しているにもかかわらず、処分は極めて軽い。これが不可解であることは言うまでもないだろう。
八王子市民の怒り
冒頭で紹介した朝日新聞の記事に戻ると、萩生田氏の地元である東京・八王子市で有権者に取材。これまで萩生田氏に投票してきたという建築作業員の男性が応じ、処分について「軽すぎる。本当は議員を辞めるべきだ」と不満を述べた。
物価高や光熱費の高騰を受け、作業員の男性は外食や酒を減らすなど、出費を切り詰めてきたという。一方、萩生田氏は多額の裏金を作っていた。男性は「自分は好き勝手に金を動かしていたなんて、支持者への裏切りだ」と怒り心頭だ。
萩生田氏だけ“減刑”が実施されたことについて、理解を示す政府関係者もいる。萩生田氏は「安倍派5人衆」の1人に数えられる実力者だ。しかし、裏金作りの実態を把握していた可能性の高い、安倍派の事務総長に就任したことはない。
また安倍派は、一度はキックバックのシステムを停めた。それが22年8月など派の幹部が集まり、裏金システムの復活について話し合っている。この場に萩生田氏は出席していないことになっている。
ただし、以上の2点だけでは、萩生田氏の処分が甘い理由の説明にはならないという。なぜ萩生田氏だけ“えこひいき”されたのか、旧安倍派の議員が言う。
比例復活の問題
「旧安倍派内でも、今回の処分は軽すぎる、おかしいという声が出ています。萩生田さんは2003年に初めて立候補して以来、6回の当選回数を誇ります。ところが、民主党政権が誕生した2009年の総選挙では比例復活もできず落選しました。これに懲り、萩生田さんは旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係を深めるなど、なりふり構わず“基礎票”作りに励んだのです」
自民党の処分を重さの順に並べると、【1】除名、【2】離党勧告、【3】党員資格停止、【4】選挙での非公認──となるが、この4つは選挙の際に党の公認が得られない。無所属で立候補することになる。
「自民党の公認候補でなければ、連立を組む公明党における最大の支持母体である創価学会の信者も表立って応援ができません。さらに最も重要なのが、比例区の重複立候補が不可能になるということです。小選挙区制で落選してしまうと、どれだけ接戦で惜敗率が高くとも、敗者復活は叶いません」(同・議員)
自公の公的支援が受けられないため、基礎票が減ってしまう。しかも小選挙区で落選すれば一巻の終わりという“背水の陣”で選挙を戦う必要があるというわけだ。