街宣参加者と抗議する市民で騒然となる川口駅前=3月17日、川口市
蕨市などで2月、在日の特定の民族排斥を叫ぶ団体のデモが行われ、3月には川口市で街頭宣伝活動が行われた。
交流サイト(SNS)では昨年から一部の外国人の迷惑行為を挙げて民族全体を批判する声が目立っている。
差別的な言動に積極的に対抗する「カウンター」の市民の活動も活発化している。
川崎市のヘイトデモを取材してきたジャーナリストは「ヘイトスピーチの規制条例で活動しにくくなり、川口や蕨に来ている」
と指摘している。
「日本から出ていけ」「自爆テロを支援している」―。2月18日、蕨市。川崎市で在日コリアンを批判する団体がデモ行進した。
県内に多く住む別の民族を非難し、差別的な発言もあった。
3月17日にはJR川口駅前でも街宣活動を行い、同民族の関係団体を名指し、関係団体が事実無根と否定する主張を繰り返した。
一方、主催者の参加者9人に対し、約100人の「カウンター」の市民も集まり、主催側の声をやじや音楽でかき消した。
周囲には不測の事態を防ぐために大勢の警察官が警備し、周辺は騒然とした空気に包まれた。
■ネットで拡散
川崎市では在日コリアンへの誹謗(ひぼう)中傷と、カウンターの抗議が長年繰り広げられてきた。
風向きが埼玉に変わったのは昨年ごろ。一部の外国人の迷惑行為の批判を民族全体に転嫁する声がネット上で目立つようになった。
3月20日にはさいたま市内の県営公園で行われたクルド民族の祭りにも現れ、祭りの参加者と言い争いになる場面もあった。
同時にカウンターの抗議活動もネットで活発に。3月の街宣の前には、SNSで「ヘイト街宣を叱れ」との呼びかけが広く拡散した。
「在日外国人への差別は許せない」。川口市の街宣でカウンターに参加した男性(37)は、川崎市で監視活動を続けてきた。
「差別に抗議する人もいると海外ルーツの人にメッセージを示すことは重要」と主張した。
■「埼玉なら」の危険
川崎市は2020年に差別的な言動に刑事罰を科す全国初のヘイトスピーチ規制条例を制定。
ネット上の差別的な投稿に削除要請が出せるようになった。
一連の問題を長年取材している神奈川新聞記者の石橋学さんは「監視する市民の粘り強い活動の効果もあり、
デモの規模は以前より小さくなった」と状況の変化を指摘する。
一方で「条例によって存分に主張できなくなり、川口や蕨に来るようになった。ヘイトデモの参加者は『埼玉で受け入れられる』
という手応えを得ており、今まで以上の危険を感じる」と警鐘を鳴らす。
■大多数に問題意識を
デモ・街宣の現場では、積極的に対峙(たいじ)するカウンターとは別に、
反差別のスピーチやスタンディング活動をする人々も見られた。
外国籍の友人を持つ30代の川口市民は「同じ民族でも見た目はそれぞれ異なるのに外見だけで『怖い』と言うのは差別。
騒いでいるのは地元住民ではなく、差別しない市民がいると示したい」と話した。
30代の蕨市民は「『国へ帰れ』と差別する大人を子どもがまねし、学校でいじめが起きている。
関心がない大多数の人にも問題意識を持ってほしい」と、差別禁止条例の制定を行政に求めていくとした。
大野元裕知事は3月28日の知事会見で、「ヘイトスピーチ解消法は本邦外出身者への差別的言動は許されないと宣言している。
ヘイトスピーチは地域社会から徹底して排除されなければならない」と、共生社会に向けた取り組みの重要性を強調している。