◆「貯金・年金・共済取れるまで回らす事」「数字が全てです」
「貯金・年金・共済取れるまで回らす事」「数字が全てです」。兵庫県内のあるJAでは、ノルマ達成を管理職に徹底するメールが今でも送られている。これを受け取った同県内のJA職員は「もはや指示ではない。パワハラ(パワーハラスメント)だ」と嘆く。
労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は「パワハラ6類型の『過大な要求』に当たる可能性がある。こうした要求が自爆営業の引き金にもなりかねない」と警告する。
◆農水省監督強化から1年たったが…
自爆営業などを是正しようと農林水産省は昨年2月、共済事業の監督指針を改正し施行。職員に不必要な契約を促すといった上司の「過度な圧力」などを不祥事と明記した。全農協労連(東京)などによると、大半のJAが共済担当でない職員のノルマをなくしたり、減らしたりするなど一定の効果はあったという。ただ、一部では共済担当者と管理職のノルマが増え、退職者も出ているという。
過度なノルマを証言するのは兵庫県内の職員だけではない。首都圏のあるJAでは、ノルマ達成の状況について毎週のように報告を求められ、ノルマ達成が目的とみられる職員の自爆営業や顧客への不適切な営業が一部の支店で黙認されているという。ここで働くベテラン職員は「目標達成のために契約したなどとは職場で言えない。内部監査などの調査が必要だ」と訴える。
◆「共済担当者の退職も相次いでいる」
北陸地方の職員も「管理職は支店の目標が達成できなければ自爆せざるを得ないという雰囲気が今もある。共済担当者の退職も相次いでいる」と打ち明けた。
今でも自爆営業が続いていることについて、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)の担当者は「JAの監督官庁である都道府県から不祥事件と判断されたものはないと認識しているが、今後も指針を守るよう研修などを通じて対応していく」と述べた。
農水省の担当者は「多くのJAで共済の推進体制が見直されたが、一部職員から圧力が続いているといった声が上がっていることは残念だ。不必要な契約を結んだ職員は申し出てほしい」と回答した。
共済事業の監督強化 農林水産省は共済事業の監督指針を改正し、不必要な契約を促すなど上司による過度な圧力や、不必要な契約を職員の意向であるように偽装することを不祥事の事例として示した。こうした事例を職員が申し出れば、JAは都道府県に原則1カ月以内に報告し、調査を受けなければならないと定めた。
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◆規制が難しい職場の同調圧力
一部のJAで共済事業の自爆営業が、いまだ黙認されていることが職員の証言から明らかになった。過剰な営業ノルマを求めない組織風土の改革がJAには早急に求められる。
暴力や暴言などハラスメントを伴う強制は明らかに違法だが、「周りもしているから」などと職場の同調圧力によって不必要な契約を結ぶ事例は「任意」とみなされうるため規制が難しい。佐々木亮弁護士は「過度な要求を職員にしないことに尽きる」として、「組織風土を変えるため意識改革を進めないといけない。上層部と現場のコミュニケーションや労働組合の活動が重要だ」と指摘する。
◆現場から不安「過大なノルマが残れば不祥事を招く」
昨年6月に閣議決定された政府の規制改革実施計画には、共済の営業ノルマの実績として職員の自己契約を評価しないといった対策が入った。ただ、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)の対応は4月からだ。対応の遅さに加え、現場からは「過大なノルマが残れば、借名契約などの不祥事につながりかねない」との不安が漏れる。
自爆営業は郵便局やコンビニなどでも問題になったが、自爆営業そのものが労働基準法に抵触したり、パワハラに該当したりする明確な基準はない。政府の規制改革推進会議は違法となり得る自爆営業の事例を明示するなどの対策を今後まとめる方針だ。