日銀は19日、マイナス金利政策を解除し、約17年ぶりの利上げに踏み切った。物価研究の第一人者で、日銀OBの渡辺努・東京大大学院教授(専門は物価と金融政策)は「利上げのタイミングがおかしい」と疑問視し、デフレ脱却には「あと2年が勝負」と指摘する。その理由とは。
物価の基調「上がっている気配なし」
――今回の金融政策見直しのタイミングは適切だったと考えますか。
◆金融政策の正常化には賛成だ。ただ、日銀の仕事は「物価の安定」で、物価に基づいて政策を判断するのが原則。特に注目していると言われるサービスの価格は、どのように数字を分析しても上がっている気配が見られない。むしろ今は「日銀が頑張らなくてもインフレ率が下がっていくような状況」にある。サービス価格の上昇は昨夏や昨秋がピークだった。タイミングがおかしいのではないか。
賃上げが物価に反映されるかが重要
――今年の春闘で昨年を上回る賃上げ回答が出ていることも利上げ判断を後押ししたようです。
◆大幅な賃上げは非常に望ましいことだ。連合など関係者に敬意を表したい。賃金が上がった分だけ、特にサービス業で価格転嫁が起きるかが今後の一つの焦点になる。実際に転嫁が起きれば、懸案のサービス価格の弱さが是正される。賃上げが物価にもきちんと反映されたという流れを確認した上で、マイナス金利を解除すべきではないか。6月には定額減税も控えている。消費が強くなるなどの効果が確認できてから、夏以降、年内までに見定める選択肢もあった。
異次元緩和「決してうまくいったわけではない」
――約11年間にわたる「異次元の金融緩和」をどう評価していますか。
◆少なくとも「デフレから脱却しなければならない」という意識を広げる意義があったのは間違いない。ただし、…(以下有料版で,残り1196文字)