契約書のルールにのっとり働いていたそんな小原さんでしたが、一部の住民から「管理員を辞めさせろ!」「もっとまじめに仕事しろ」などの声が理事会で相次ぎ、マンション管理士の松本氏のもとへ相談の連絡が入りました。
聞けば前任者だった70代の男性は、頼めばなんでも聞いてくれるいわゆる「何でも屋」で、範囲外の業務も引き受け、その見返りとして謝礼金を受け取っていたといいます。そのことで一部の居住者からクレームが入り、小原さんに変更になった経緯がありました。
こういったトラブルの相談は「実は少なくない数ある」と松本氏は言います。ではそのトラブルの根本的な原因には一体なにがあるのでしょうか。<【前編】66歳女性が青ざめた、築40年の「高齢者マンション」で起こった、住民たちの理不尽な要求…理事会で「管理員を辞めさせろ!」と怒鳴られて>に引き続きお伝えします。
「昭和の価値観」を変えられない
じつは築年数の古いマンションでは、総会でこのような出来事が時々あります。高齢者の多いマンションの居住者は、現在の「カスタマーハラスメント」という概念にピンとくる方がほとんどいません。
団塊の世代の高齢者は自分が現役だった「昭和の時代の価値観」を引きずったまま、それを“一般社会の常識”ととらえがちです。なので、現在のカスタマーハラスメントという言葉の存在すら認識していない方が少なくありません。
そもそもマンション管理組合という組織は、一般の企業とは異なり、理事長とはいえども組合員の中から持ち回りや抽選で選ばれただけで、会社の代表取締役や部長のように部下がいるわけでもありません。
ウラを返せば、上下関係のない組織なので、一部の“声の大きい人”が幅を利かせやすい環境とも言えます。そんな居住者が度を越した迷惑行為をはたらいても、一つ屋根の下に住んでいるという距離感から直接注意することに遠慮やためらいがあります。
そのようなメンバーで共有財産であるマンションの共用部分の維持管理をする「管理組合」を構成するのですから、そもそもハラスメントが起こりやすい環境なのです。