リレーをやりたい生徒8割、やりたくない生徒たった15人…それでも中止を選んだ中学生の胸中

リレーをやりたい生徒8割、やりたくない生徒たった15人…それでも中止を選んだ中学生の胸中

リレーをやりたい生徒8割、やりたくない生徒たった15人…それでも中止を選んだ中学生の胸中


(出典 float-space.hatenablog.com)

運動会は何のためにあるのか。横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一さんは「麹町中学校校長時代に運動会を廃止し、生徒たちのお祭りとしての体育祭に変更した。その決定権をすべて生徒たちにあげたところ、“全員リレー”をめぐり象徴的な出来事が起きた」という――。

※本稿は、工藤勇一『校長の力 学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■学校経営的に考えれば大きな問題があった運動会

赴任した当時の麹町中では、運動会の競技は先生が決めた種目を生徒に行わせていました。生徒たちに自由があるとすれば、学年の種目だけでした。

1年生は「台風の目」という、棒を持ってグルグルと回る競技を行っていました。3年になるとクラス全員、大縄で結ばれたムカデ競走。そういった伝統的な種目がすでに決まっていて、どのクラスも優勝をめざしてみんなで一所懸命、朝練をやったりしながら、技術をあげて勝負する。当日は多くの子どもたちが勝って泣き、負けて泣く。

青春ドラマ風のストーリーでした。

しかし、学校経営的に考えればこの教育活動には大きな問題があります。

そもそもどのクラスも優勝をめざして取り組むわけですから、優勝した1クラス以外は目標が実現しない教育活動だということです。5クラスあれば4クラスが、10クラスあれば9クラスが負ける教育活動です。言い方を換えれば、ほとんどのクラスが失敗する行事です。

中には練習がうまくいかず、友達同士が仲違いし、クラスがバラバラの状態になったりもします。運動が苦手な生徒の中には、馬鹿にされたり責められたりするのがいやで登校をしぶるようになることもあります。スポーツは楽しいよと教えるはずの運動会が、生徒によっては苦痛を与えられるものになってしまうのです。これがきっかけで、人間関係がボロボロになる子どもたちすらいます。

■運動会を「民主主義を学ぶ教育活動」にした

しかし、教員の中には「それこそが人生の学びであり、勝つという目標をめざして団結して、たとえ負けても努力することこそが教えるべき大切な教育だ」なんて、もっともらしいことを述べる人がやたら多いのが実態です。

でもそれは真実でしょうか。教員たちにスポーツのあるべき姿を考え直してほしいのです。

そこで僕はすべての子どもたちにとっての学びの場にすべく、強制的に団結を強いるこれまでの運動会を小手先で改善していくのではなく、新たに民主主義を学ぶ教育活動として生徒たちにこう伝えました。

運動会はやめよう。生徒たちのお祭りとしての体育祭にしよう。どんな体育祭にするか、その決定権を全部君らにあげるよ」と。

当然、生徒たちは大喜びですが、これまで決定権をすべて委ねられたことなんてありませんから大変です。子どもたちはいったい何をどう始めればいいのか、はじめはまったく見当がつきませんでした。

僕は生徒会のメンバーを校長室に呼び集め、他の学校ではどんな体育祭をやっているのかを調べてみよう、というところから始めました。

■運動が好きな子も苦手な子も、誰一人置き去りにしないように

日本No.1の進学校として知られている開成中・高の体育祭は有名で、1年間をかけて生徒たちがすべてを準備をしていくそうだ。また、都立で有名なのは小山台高校で、伝統の運動会みたいなのがあるらしいなど、いくつかの情報をもとにインターネットで準備や運営方法などを調べることから始めました。

僕はそこで大事なミッションをひとつ、与えたのです。

「競争が大好きな生徒は思い切り競争し、それがいやな子はそれをしなくてもいいことにしよう。とにかく生徒全員を楽しませて!」

運動が好きな子も苦手な子も一人残らず、誰一人として置き去りにしないように、という最上位目標です。

この考え方のもとに、生徒たちが行う体育祭の試みを1年目、2年目、3年目と続けていったのです。

最初は先生たちがかなりフォローしましたが、1年ごとに少しずつ生徒たちができることを増やしていきました。

当初、言われたことしかできなかった生徒たちが、次第に企画から運営、練習、本番の運営までのすべてを手がけるようになっていきました。

結果としては4年ほどかかりましたが、とうとう準備から運営までのすべてを生徒たちが行うようになりました。

■運動が「好きな人」「嫌いな人」のチームを作った

「全員を楽しませる」という目標を実現するために生徒たちが行ったことを紹介します。

まず、「クラス対抗戦をやめよう」ということを決めました。勝った負けたと喜んでいるのは悪くはないが、たかが勝ち負けで明日からの生活に影響されるほどのものにしてしまうのはやめよう、と決論を出したのです。

そこで実行委員の生徒たちは、3学期に1年生と2年生に「あなたは運動が好きですか嫌いですか」というアンケートを取ったのでした。そして回答を集計しそれぞれ名簿を作り、「好きな人」と「嫌いな人」、それぞれを全体で2つのチームに分けたのです。

春になり新入生が入学してくるとまた同じアンケートを取って、2つに分けて、学校全体で東軍・西軍を作りました。

どちらにも運動が好きな子、嫌いな子が同じ数だけいる、いわば1日限りのチームです。だから後腐れもありません。

彼らは運動が苦手な子どもたちのために、めちゃくちゃ楽しく遊べるような競技も作りました。

ダンスをしたい子はチームを作って一所懸命練習をする。それぞれが出たい種目を選択できるようにしました。もちろん服装・頭髪も自由です。顔にペイントしたりサングラスをかけたり、日焼け止めを塗ったりと、まさにお祭りのような盛り上がりになりました。

■「全員リレーをやりたくない」15人をどう捉えるか

そう、体育祭というのはそもそもお祭りです。

一方で、運動が得意な子どもたちのためには、朝練をしたくなるようなハードな競技なども準備しました。お仕着せではなくて、まさしく青春ドラマのような感動が生まれてきました。

やらされる体育祭から、みんなで楽しみながら盛り上げることのできる体育祭に変わっていったのです。

もちろん困難は山ほどあります。練習日程も練習方法も当日の進行も準備もそこで起こるすべてのトラブルも、何もかも生徒たちが自ら解決していくのですから、大変さは運動会だった時代とは比べようがありません。すべてを全員が楽しめるということを目標にして進めていくのですから。

中でも全員リレーをやるかやらないか、その決定プロセスは象徴的な出来事でした。

3年生にアンケートを取ると8割が「全員リレーをやりたい」と回答。その他は1割が反対、1割はどっちでもいいというものでした。

つまり、「やりたくない」と意思表示をした人が、数にして15人ほどいたのでした。

この15人をどう捉えるか。

後日、生徒会長卒業式の時のスピーチでこう語っていました。

「もし、賛成が100パーセントだったなら、僕たちは全員リレーをやったと思います。でも結果は違いました。話し合いをした結果、僕たちは全員リレーをやらないという結論を出しました。それは僕たちのゴール(目標)『全員が楽しめる体育祭』を実現させるためです」

■困ったら「最上位目標は何か」を考える

全員リレーをやりたくない理由は、女の子に抜かれて嫌だとか、運動が苦手で苦痛とかさまざまです。それはそれで当人にとっては切実な事情です。

全員リレーがあるから体育祭が楽しめないのだとすれば、最初に設定した最上位目標「全員を楽しませる」ということには合致していない、と生徒たち自身が判断したのでした。つまり、運動が得意な子たちは思い切り競争ができるし、苦手な子は遊べて楽しい一日になる。という次第で、「全員が楽しむ」という課題を工夫しながら実現したのでした。

最上位に据える目標は全員がOKしたこと。誰かを切り捨てたり、誰かが我慢しなければならなかったりするのは民主主義的ではない――そう生徒たち自身が判断したのです。

生徒たちは、生徒全員が楽しめる体育祭をまさに作り上げたわけです。

課題を解決する力がつくということで、それ以後何かに迷った時、自分にとっての最上位目標は何なのか、ということを考えて対処できるようになりました。それは学校に限りません。どの分野、どの国へ行っても、困った時には自分で考えて解決していく力を身につけていく人になります。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/undefined undefined

(出典 news.nicovideo.jp)

「リレーは楽しい活動だけど、やりたくないという生徒もいるのは事実。でも、その15人の気持ちも大切に考えて、みんなが納得して参加できるイベントを作ることも大切だと思います。中止を選んだ生徒が守りたかったのは、全員が楽しめるイベントを実現するためなのかもしれません」

「リレーをやりたくないと言う生徒たちも、その気持ちを尊重するべきだと思います。中学生は個々の考えや感情を大切にすることが大事です。中止を選んだ生徒が守りたかったのは、みんなが平等に扱われることなのかもしれません」

「リレーをやりたい生徒が多い中で、中止を選んだ15人の生徒の考えには深い思いがあるのかもしれません。リレーが苦手な人もいるし、そんな人たちの気持ちを無視することはできません。中止を選んだ生徒が守りたかったのは、自分たちの意見や気持ちを尊重してもらうことなのかもしれません」

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