両国の順位逆転について、筆者はBusiness Insiderへの寄稿でこれまでも何度かその可能性を指摘し、2023年11月には逆転の見通しが確実になったことをお伝えした上で、とは言えドイツ経済を「順風満帆、前途洋々とイメージするのは全くの誤認」と論じた。
したがって足元が騒がしいのは、日本とドイツの逆転が統計を通じて確認(追認)された、それだけと言えばそれだけの話なのだが、このドサクサに紛れて危うい主張や議論が(専門家のそれも含めて)幅を利かせているのが非常に気になる。
具体的には、日本とドイツの逆転が「(円安という)為替要因が大きく、4位転落に騒ぎ過ぎ」といった斜に構えた見方や、「普段使わない(多くの日本人の日常には無関係な)ドル建て名目GDPを比べて意味はあるのか」と、比較自体の有効性を問う姿勢がそれだ。
下の【図表1】を見ると分かるように、ドル建て名目GDPはドル/円相場と強い相関関係にあり、日本とドイツの逆転要因を為替(かわせ)に帰結させる認識は別に間違っていない。
しかし、為替の変動が要因だから何だと言うのだろう? そこに何か安堵(あんど)できるような要素があるというのだろうか?
「いずれ円高に戻る」説の危うさ
筆者に言わせれば、為替変動によって順位が(一時的に)逆転しただけ、との見方は現実逃避にすぎない。
そのような見方は「いずれ円高に戻る」未来を前提としている。円高になれば、日本とドイツの順位はまた変わるかもしれないじゃないか、と。
しかし、いつどれほどの円高に戻ると言うのか?
2022年春に1ドル=110円台で推移していた円相場は、同年中に140円台まで急落、130円台前半までの反発を経つつも再び円安が進み、足元では150円前後を行き来している。
円安局面はすでに2年持続しており、そこに何かしら日本固有の要因が存在する可能性を疑わない方が無理というものだ。
名目ないし実質実効為替相場(NEERないしREER)の推移を見ると一目瞭然だが、近年の日本円は対ドルにとどまらず、あらゆる主要貿易相手国の通貨に対してまとまった規模で売られている。
円は為替市場で忌避されていると言っても過言ではない。
もし日本経済の「弱さ」ゆえに長期的かつ全面的な円安が起きていて、その結果としてドイツに追い抜かれたのだとすれば、将来を楽観する理由はどこにもなくなる。
期待すべき円高は訪れず、著しく切り下がった水準が円の「ニューノーマル(新たな常態)」になるなら、ドイツを下回る名目GDPもまた日本経済のニューノーマルということになろう。