慢性うつ病の持続可能な治療法として医療用大麻が利用できる可能性がある。
この研究は、ドイツのエッセン大学付属LVRエッセン病院の研究チームが欧州有数の大麻遠隔医療プラットフォーム「Algea Care」と共同で行ったもので、
精神神経学の査読付き専門誌Pharmacopsychiatryに今年1月に論文が掲載された。
研究では、医療用大麻を用いた患者において、うつ病の重症度が有意に低下するなど症状の改善がみられた。
また、研究参加者の間に医療用大麻による重篤な副作用は確認されなかった。
研究チームは、「医療用大麻の忍容性(副作用の許容範囲)は良好で、脱落率(臨床試験の継続ができなくなった症例の割合)は抗うつ薬の場合と同程度だった」
「患者の報告によると、うつ病の重症度は臨床的に有意に低下した」と記している。
■世界の成人人口の5%がうつ病
米メイヨー・クリニックによれば、大うつ病性障害(MDD)は臨床的うつ病とも呼ばれ、気分の落ち込みや興味の喪失などの持続的な症状を特徴とする精神疾患だ。
米疾病対策センター(CDC)の統計では、2020年時点でうつ病と診断された経験のある米国成人は18.4%に上る。う
つ病になると、家庭、仕事、学校など生活のあらゆる面で困難に直面しかねない。
うつ病の治療には、抗うつ薬と気分安定薬が用いられることが多いが、効果は限定的だとの臨床結果がある。
症状がまったく好転しない患者もいれば、寛解までに至らない患者も多い。
今回の研究は、慢性うつ病患者59人を募集して行われた。
参加者は全員、従来の処方薬による治療で効果がみられず、代替治療法としての医療用大麻の使用と個人を特定しない評価に同意した。
その後、処方された医療用大麻を2021年初頭から18週間にわたり蒸気吸入した。
■18週間の大麻使用で、重症度が6.9点から3.8点に低下
医療用大麻による治療でうつ症状が改善
患者は治療の一環として、自分のうつ病の重症度を0~10点で評価した。
治療開始時の評価の平均値は6.9点だったが、医療用大麻の使用開始から6週後には5.1点に、12週後には4.1点に、18週後には3.8点に低下した。
患者のうち14人(23.7%)は、6週後に重症度が半減した。
患者の3分の1強(35.6%)から副作用の報告があったが、いすれも軽度だった。
報告された副作用は、目の乾き、口の乾き、食欲増進が各4人(6.8%)、集中力の低下、疲労感、見当識障害が2人(3.4%)、吐き気、頭痛、味覚変化、
喉のイガイガ感、無気力、落ち着きのなさが1人だった。
妄想や幻覚といった重篤な副作用の報告はなく、医師、精神科医、科学者からなる研究チームは、
医療用大麻による治療の安全性が確認できたとしている。
研究チームは、慢性うつ病治療に医療用大麻を使用するための有効な推奨事項を導き出すためには、前向きコホート研究やランダム化比較試験など、
できればより多くの参加者を対象としたさらなる研究が必要だと指摘している。
Algea Careの創業者兼最高経営責任者(CEO)で、親会社Bloomwell Groupの共同創業者でもあるユリアン・ウィヒマン博士は、
「非常に有望で心強い研究結果だ。ドイツの精神疾患治療における医療用大麻の継続使用の効果をいっそう裏づけるものだ」
「精神疾患や疾病の治療における大麻療法の効果をめぐる今後の研究の基礎にもなる」と述べている。
今回の研究結果は、うつ病の治療における医療用大麻の使用を検証した既存研究の結果とも一致している。
医学誌Psychiatry Researchに2022年に掲載された研究論文では、不安障害やうつ症状のある患者7000人を対象とした調査で、
大麻使用後の持続的な改善が報告された。
医学誌Biomedicinesに昨年発表された研究論文でも、処方された大麻製品の継続的な使用と、高齢患者の疼痛、うつ症状、
オピオイド系鎮痛薬使用の有意な減少に、相関関係がみられた。