そうしたおりに、内閣府が発表した2023年の名目GDPは591兆4820億円となり、ドルベースで換算すると日本はドイツに抜かれ、世界3位から4位へと転落した。
これは円安の影響もあるが、この30年間日本がまともに成長しなかったのが大きい。民間エコノミストから、投資など前向きな経営をしてこなかったからだという指摘もある。
この点でまず指摘したいのは、日本がデフレだったことだ。
インフレもデフレは持続的な物価上昇と下落であるが、経済全体で見た需要と供給のバランスが崩れることで発生する。
歴史を見ると、20世紀はじめの大恐慌前後ではデフレの状況はまったく異なる。19世紀の産業革命時においては、金本位制であったために需要の創出には限界があった一方、技術革新による供給の拡大がしばしばデフレをもたらした。
ノーベル経済学賞を受賞し、筆者もプリンストン大への留学時代に大変お世話になったベン・バーナンキ先生によれば、大恐慌では金本位制に固執した国ほどデフレが酷かった。が、日本は高橋是清の時代を超えた卓越した財政金融政策により、その当時の世界の国の中でも比較的早くデフレから脱却できた。
大恐慌以降、金本位制にかわって管理通貨制度が構築され、合わせてケインズ経済学による有効需要創出が普及したので、インフレーションに比してデフレは圧倒的に少ない。その例外は1990年半ば以降の日本の失われた20年間だけともいわれている。
なぜ日本だけなのかは興味深いが、財務省と日銀という官僚機構が強い権限の割りにマクロ経済の専門知識が欠落していたこと、官僚の無謬性により誤りを認めないので、間違ったままの政策が長期間継続したと、筆者は考えている。
もっとも、デフレについては、安倍・菅政権のアベノミクスで脱出の糸口が見えた。GDPデフレータ伸び率でみると、1994年以降、安倍菅政権以前は平均▲0.9%であったが、安倍菅政権で+0.6%まで改善した。二度の消費増税とコロナ禍がなければ+2%程度だっただろう。二度の消費増税は民主党政権が決めたこととはいえ、日本経済のデフレ脱却には大きな足かせになったのは事実だ。
ただし、政府の投資は酷かった。2023年8月7日付けの「現代ビジネス」本コラムなど、何度も、国交省が採用している社会的割引率が4%と高すぎることを指摘してきた。割引率は20年ほど前に設定されたままとなっているが、本来は金利と同水準であることを考えてもあまりに異常である。
筆者はこの問題をかなり以前から指摘し、政府内でも見直しを働きかけてきた。安倍・菅政権では、国交省はのらりくらりして結論を先送りし、岸田政権になってやっと2023年6月に結論を出した。それは、4%の社会的割引率を20年も続けたのは問題だが、それを維持するというのも信じがたいものだ。
本来の割引率は期間に応じた市場金利であるが、海外では市場金利の変動に応じて、ほぼ毎年見直すのが当たり前だ。これを現在の低金利環境を踏まえて機械的に見直すだけで4%から1%程度になるはずだ。となると公共投資予算について、これまでの倍増以上の大幅増が達成可能だ。
成長では、マクロ経済政策が重要だ。1990年代は財務省も日銀も酷かった。安倍・菅政権以降、日銀はまともになった。しかし、上述の通り低金利環境を活かせず、公共投資は過小だった。それにより民間も過小になったのが、GDP転落の背景にある。