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時価総額1000兆円消失すらかすむ、中国から届いた「最悪のニュース」
とはいえ、アジア最大の経済大国から伝わってきた最悪のニュースは、他にある。中国のデフレが過去数十年で最速のペースで進んでいるという話ではない。大手不動産会社の中国恒大集団に香港で清算命令が出されたという件でもない。最悪のニュースは、まさに中国に関する「悪いニュース」に対して、中国の習近平指導部が戦いを本格化させたらしいことだ。
報道によれば、中国の主要な情報機関である国家安全省は最近、中国経済や市場の見通しに関して批判的な見解を広める者を見張っていると明らかにした。「虚偽の言説」によって「中国経済をおとしめる」言動をするな、という背筋の寒くなるような警告は、アダム・スミスに始まる近代経済理論とはかけ離れた毛沢東的な発想だ。そしてこれは、中国の影響力が高まるなかで非常に厄介な問題を引き起こしている。
国家安全省は「経済宣伝と世論誘導を強化する」と公言した。だが、本当に気がかりな問題は、具体的にどのような行為が取り締まりの対象になるのかという、発表文の「行間」に隠された部分だ。
(略)
たとえば、中国経済は苦境にあると確信しているエコノミストは、中国国内で発表するリポートやスピーチでそれに言及しても大丈夫なのか。中国本土の企業が帳簿をごまかしていると判断できる場合、当局の事情聴取を受ける危険を冒さず投資家に警告するにはどうすればいいか。あるいは、中国本土の不動産開発会社が近くデフォルト(債務不履行)に陥りそうだと感じたストラテジストは、その懸念を公の場で表明してよいものだろうか。
外国の報道機関の場合も同様だ。所属する記者が、中国の地方政府の債務リスクは知られている以上に悪いという内容の記事を執筆した場合、それを配信してよいのか。記者がマディ・ウォーターズのような空売り投資会社を取材したら、国家安全省の手入れを受けることになるのか。
SNSの微博も「中国経済の悪口を言うな」とユーザーに警告
ソーシャルメディア企業は、カイル・バスのようなヘッジファンドマネジャーやジョージ・ソロスのファンドが人民元の下落や香港ドルの米ドルペッグ制崩壊に賭けているニュースがSNSでシェアされたとして、責任を問われるのだろうか。
昨年過去最悪を記録して政府が公表を取りやめた中国本土の若年失業率の影響を研究している香港の学者は、その研究を葬り去るべきか。非政府組織が中国の広域経済圏構想「一帯一路」による環境破壊に関する研究を中国で禁止されたくない場合、どうしたらよいのか。
ここ最近の動きを踏まえると、こうしたシナリオはもはや仮定の話にとどまらなくなりつつある。
昨年12月、中国のSNS「微博(ウェイボー)」は一部のユーザーに、中国経済についての悪口を言わないよう求めた。ユーザーは「中国経済をおとしめることを意図したさまざまな決まり文句」や「中国を戦略的に封じ込め、抑圧しようとする試み」を控えるよう促されている。
また、ここ数週間で、著名なエコノミストやジャーナリストの論評が中国のネット空間から削除されている。ちょうど習の側近らが、中国の経済や不動産部門、株式市場に関する明るい見通しを広めるよう働きかけているタイミングでだ。
これらは、力強く自信に満ちあふれた政府がとるような行動ではない。自国の資本市場が、世界で評価される状態にないと自覚している政府の行動だ。中国は、自国の経済が2021年以降に被った何兆ドルもの資金流出を反転させたいのであれば、むしろ透明性を高めるべきなのだ。良いニュースであれ悪いニュースであれ、公表させるのだ。
(略)
中国から良いニュースが届くのは、むしろ悪いニュースが流れるようになったときだろう。それは習指導部が中国経済への自信を取り戻した表れだろうから。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8f5f3ec330fd80ebef58f21bcbabf8a2599f0eb0?page=1