数年前から欧米の若者を中心に広がり、『飲まない生き方 ソバーキュリアス』として書籍化までされている。
日本でも飲酒率が低下し、酒を飲まない若者が増えているというが、その理由はなぜなのか。
ニッセイ基礎研究所生活研究部の久我尚子氏に聞いた。
● 低下傾向にある 日本人の飲酒習慣率
「若者のアルコール離れ」が叫ばれて久しいが、実際に日本人の飲酒習慣率は低下傾向にあるようだ。
「厚生労働省による飲酒習慣率調査を見ると、週に3回以上飲酒する習慣飲酒者は、男性では1989年に51.5%だったのに対し、2019年では33.9%まで下がっています。
男性の飲酒習慣は全年代で低下しており、特に20代は男女ともに飲酒習慣が低下傾向にあります。
若い世代ほど飲酒習慣がなくなっており、アルコール離れしているのです」
そう話すのはニッセイ基礎研究所生活研究部の久我尚子氏だ。飲酒率低下の背景には昨今の健康志向が大きく影響しているという。
「世代を問わず、昔に比べて健康志向が高まり、飲酒や喫煙のリスクが問題視されています。さらにコロナ禍をきっかけに、健康志向はより加速しました」
特に、若い世代ほど、「娯楽」としての飲酒の価値が相対的に下がっていると話す。
「一言で言えば、飲酒はコスパが悪いということに尽きると思います。一般的に飲酒のメリットは、楽しい気分になる、コミュニケーションが円滑になるなどがあると思います。
一方、デメリットは健康への悪影響、そしてコストがかかること。さらに飲み会に行けばお金だけではなく体力や時間も使いますし、
酔っ払ったことで失敗行動のリスクも上がります。飲酒のメリットよりもデメリットの方が大きいと考える若者が増えている結果だと思います」
ネットやSNSの浸透によって、わざわざコストをかけてリアルでコミュニケーションを取る必要性は低下してきている。
「実際に会わなくても、SNSでゆるくつながっていられるため、若者のリアルでのコミュニケーション欲求自体が下がっているのだと考えられます。
またアルコール以外の娯楽が増えていることも大きいですね。動画配信やSNSなどの情報をチェックするだけでも多くの時間がかかりますし、
今の若い人は、飲酒以外にやることがたくさんあって、忙しくなっています」
そんな多忙な若者にとって、飲酒はコスパもタイパ(タイムパフォーマンス)も悪い娯楽であり、優先度が低くなってしまうのも当然なのかもしれない。
※略
● 「飲みニケーション」よりも 「コミュニケーション」を求める若者たち
健康意識が高く、コスパ、タイパ重視の若者のアルコール離れは必然の流れだったようだが、逆に今の若者はどんなものに価値を感じるのだろうか。
「今は社会全体が成熟化して、『安くて良いモノ』が手に入ることが当たり前になってきているので、モノそのものの価値よりも、
サービスや自分だけの体験に感じる価値の方が強くなっていますね」
そういった意味では、飲酒はお金さえ出せば誰でもできる体験であり、特別感が薄いことも魅力的に映らない要因なのかもしれない。
「昔から『アルコールが別に好きじゃない』人って一定数いましたよね。
ただ飲酒しか職場の上司や先輩とコミュニケーションを取る手段がなかったので、昔は多少嫌でも飲むしかありませんでした。
でも今はもう『飲みニケーション』的なものは完全に過去の遺物ですし、若者は求めていません。
若者はハラスメントに関する意識も高いので、上司も無理強いしない。だからコミュニケーションに飲酒の出番がなくなってしまったのです」
※略