みなし仮設 自治体が仮設住宅の代わりに、民間のアパートや一戸建て住宅を借り上げて、住宅に住めなくなった被災者に提供する。災害救助法の適用地区に住み、住宅が全壊、全焼、流失した人や半壊でも住宅として再利用できず、やむを得ず解体を行う人らが対象。家賃は国と県が負担する。入居先は耐震性のある住宅に限る。入居期間は2年以内。
◆「応急仮設いつ…早く入れるところを」
1月末、60代夫婦が金沢市の「のうか不動産」で市内の物件を契約していた。能登町の自宅は屋根瓦が落ち、壁や柱にもひびが入り罹災(りさい)証明書発行の手続き中。親戚がいる神戸市に身を寄せているが「応急仮設住宅にいつ入れるか分からない。早く入れるところを探した」。2月初旬の入居が決まった。
苗加(のうか)充彦(みつひこ)社長(54)によると、地震発生から1週間が過ぎたころから、みなし仮設への問い合わせが届くようになった。2~4人ほどが住める物件を求める高齢夫婦や家族連れがほとんどで、能登地方にアクセスしやすい、ペットと同居できる物件が人気という。1月31日までに約80件の物件を紹介し「かなりなくなってきている」と話す。
◆連日問い合わせ電話「回線パンクするほど」
県と協定を締結する県宅地建物取引業協会は、県内で1500戸以上をみなし仮設の候補として登録。1月末まで内見中も含めて約700戸をあっせん。協会の担当者は「回線がパンクするほど連日電話が鳴りやまない」と話す。
県は、みなし仮設は応急仮設の入居ができるまでの住まいと位置付ける。県内では4300戸のみなし仮設を用意し、2日現在、1194戸の入居が決まっている。県はみなし仮設を富山、福井、新潟の各県で計3700戸を追加し、計8000戸分を確保した。だが、被災者ニーズがあるのかは未知数だ。
◆罹災証明書発行遅れる自治体では諦める人も
被災自治体の中にはみなし仮設の入居に必要な罹災証明書の発行が遅れている所もある。発行を受けることで、行政から敷金礼金や賃料の支援を得られるが、発行前では家賃などを立て替える必要があり、諦める人もいる。
協会の担当者は「柔軟にスピード感を持ってみなし仮設に入居できるスキームが必要だ」とも訴える。例年3月ごろは新生活を始めるファミリー層向け物件の需要が高まる。今後、被災者以外の人も物件を借りづらくなることも心配されている。
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◆介護があるのに山間地紹介され「とても行けない」
能登半島地震で被災者が一時的にホテルや旅館に滞在する2次避難で希望に沿えない例が相次ぎ、介護などの事情を抱え遠方へ移ることが困難な人に厳しい現実を突き付けている。
「避難所難民になってしまった」。石川県輪島市に住む病院職員の40代女性は悔しがる。
80代の母が輪島市内の避難所で高熱を出し、市内の病院に救急搬送された。その後、金沢市内の病院に転院。退院を前に、ホテルや旅館などの2次避難所に移そうとしたが、県から紹介されたのは、山間地だった。
母への付き添いが欠かせない。「遠方に行ったら仕事を辞めなければならず、とても行けない」と言う。金沢市内の別の病院に転院したが、3週間を目安に退院することになっており、その後の見通しは立っていない。
◆県担当者「施設にも数に限りが」
珠洲市の三崎中体育館に身を寄せる干場(ほしば)フジさん(81)は、夫の一郎さん(85)が金沢市内の病院で退院を控えている。退院後も同じ病院に通院が必要という。1月下旬から1週間ほど毎日、コールセンターに電話をかけ続けたが入れる避難所は見つからなかった。結局、息子が探した金沢市内のアパートに2月から入居することにした。
県によると、5日時点で金沢市内のホテルや旅館などには1803人が避難する。県担当者は「県内の2次避難所はかなり埋まっている状態だ。施設にも限りがあり、調整を進めている」と話している。