筆者は中国のSNSで偽造カード作成と販売の闇バイトを募集していた業者に応募者として接触。その後、「面接場所」として指定された都内のファミレスに、怪しまれないよう在日中国人の取材協力者・S君とともに向かったのだった――。
昨年12月、マイナンバーカードなどの偽造を行っていたとして、20代の中国籍の女が警視庁に逮捕された。女は’23年6月ごろから、中国国内の指示役に従い、日本の身分証の偽造品を作成し、指定された住所に郵送していたという。警視庁は、女が750枚のマイナンバーカードの他、在留カードなど約1万枚のカード偽造に関与していた可能性があるとみている。
公的身分証として利用される、マイナンバーカードの偽造が横行しているとすれば、日本社会を根底から揺るがす大問題だ。しかし、河野太郎デジタル相(61)は、逮捕された女が作成していた偽造マイナンバーカードについて「単純なもの」と一蹴し、「様々な偽造・変造対策が行われている」とタカを括った。
たしかに押収された偽造カードの写真を見ると、ICチップの形が正規のカードと異っているなど、雑な点がある。ところが、筆者が接触した男は「すでに同種の偽造マイナンバーカードが大量に生産され、日本中で利用されている」と語る。主な利用方法は、偽名での銀行口座開設だ。
「かつては、偽造の在留カードで銀行口座を開設することができたが、ここ数年で、必ずICチップの読み取り確認をするようになった。ICチップまでは偽造できないが、マイナンバーカードを身分証として提示する場合には、内蔵されているICチップの読み取りはされない。目視で名前や住所を確認されるだけだ。偽造の運転免許証を使う方法もあるが、手触りなどで偽物だと気付かれることもある。その点、マイナンバーカードなら日本人もまだ見慣れていないから、そうそうバレることはない」
ある地方銀行で窓口業務を行う銀行員に筆者が確認したところ、こう認めた。
「確かに在留カードとは異なり、マイナンバーカードによる本人確認の際には、カードの目視と表面のコピーを取るのみでICチップの読み取り確認はしていません。利用者の大半が日本人であるマイナンバーカードで、外国人だけ読み取り確認をするとなると、外国人差別という批判を受ける可能性もありますから……」
こうして架空名義で開設された銀行口座は「トバシ口座」として、特殊詐欺などの犯罪に利用されることになる。架空名義の銀行口座が用意できれば、同じく犯罪道具のひとつである「トバシ携帯」の契約も可能になる。件の男によると、携帯電話の契約時にも、ICチップの確認はされないという。
自らの商材について一通り説明するだけで、男は採用を決めたようだった。カードの受注から発行までは、「こんなもの、3日あればすぐ作れるよ」と豪語した。
「集客はこちらでするから、作成して送るだけだ。マイナンバーカードの偽造に必要なプリンターとラミネーター、台紙やフィルムを郵送するから、住所を知らせてくれ。一枚500元(約1万円)で売って、30%が君の儲けだ」
男はそう話すと、合格証の代わりに、偽造マイナンバーカードの「サンプル」を手渡した。この偽造マイナンバーカードは「第1世代」と呼ばれる代物で、日本国内で1万枚以上が作成・販売されているという。
これらの事実から浮かび上がるのは、大規模な犯罪組織が日本国内の偽造身分証を一元的に手掛けている可能性である。さらに男は、「現行品よりも精度を増した偽造マイナンバーカードの流通もまもなく始まる」と明かした。
今年度には、保険証や運転免許証のマイナンバーカードとの一体化が始まるとみられている。さらなる悪用を許さないため、彼らを野放しにしておくわけにはいかない。