最終日の平和教育分科会では、原爆の悲惨さなどを伝える漫画「はだしのゲン」を教材に朝鮮人の「強制連行」に焦点を当てる一方、
安全保障関連法の反対デモに教員自身が参加した体験を語る授業実践例が報告された。
教育の政治的中立性が保たれているのかが疑われ、議論を呼びそうだ。
・「日かんへいごうで連れてきて働かされる」
リポート発表者は大阪府の小学教員。広島市の平和記念公園を訪れる修学旅行の事前学習として、
「はだしのゲン」の作中で「アジアへの侵略や強制連行」について語られる場面を取り上げ、
韓国人被爆者の慰霊碑が公園内にあることなどを説明。
訪問時に「日かんへいごう(日韓併合)で連れてきて働かされる」などとメモを取る児童の様子を振り返った。
修学旅行後には、集団的自衛権の限定行使を自衛隊に認めた平成27年成立の安保関連法について、
反対グループのメンバーらがつくった絵本を授業で読み聞かせ、
「危機感を持った人たちの思いが運動につながったことを知り、平和主義について改めて考える機会とした」(リポート)。
自身が反対デモに参加したことも教え、「選挙以外にも政治に参加できると伝えた」と発表した。
令和4年末の防衛費増額の閣議決定を子供たちとの話題にした際は、
児童から「おかしい」「もっと教育のことや困っている人のために税金を使えばいい」との感想があったと報告している。
・教材としての適切性は
「はだしのゲン」には史実かどうか検証されていない旧日本軍の加害行為が描かれており、
天皇の戦争責任を強調するなど教材としての適切性を巡って議論が割れている。
広島市は市立小中高校が取り組む平和教育の教材としていたが、「漫画の場面だけでは被爆の実相に迫りにくい」と判断し、
5年度から新教材への変更を決めた。
教育基本法では、教育の政治的中立性を求めている。安倍晋三政権で教育再生実行会議のメンバーを務めた
麗澤大の八木秀次教授(憲法学)は「『はだしのゲン』は、原爆被害の原因を日本国や日本人に向ける描写が多い。
子供たちは日本人に問題があったという印象を受けかねず、政治的中立性が疑われる。
こうした漫画を数十年も使い続けていること自体、教員が教材研究を怠ってきた証左だといえるのではないか」と指摘した。
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はだしのゲン
国民学校の少年が原爆により家族らを失う悲惨さなどを描いた中沢啓治さんによる自伝的漫画。
昭和48年に少年誌で連載が始まり、日教組系機関誌などへの掲載を経て完結した。一部の残虐表現や歴史観が問題視された。