突然の宏池会(岸田派)解散宣言を行った岸田文雄総理に対し、寝耳に水だった麻生太郎・自民党副総裁は不快感を顕わに――。蜜月だった両者の間に亀裂が入り、岸田内閣の先行きは不透明さを増している。そんな折、自民党政権に新たなスキャンダルが発覚した。「週刊新潮」の取材によって、政務三役のひとりが「有権者買収」をしていた疑いが浮上したのだ。
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その政務三役とは、自民党、愛知4区選出の工藤彰三内閣府副大臣(59)。名古屋市議を2期務めた後、2012年の衆院選で初当選を果たし、現在4期目。18年には国交政務官に就任し、昨年9月からは拉致問題や少子化対策などを担当する内閣府副大臣を務めている麻生派の議員だ。
「工藤さんのところの政治資金の扱いは極めてずさん。18年には会員制集会の収支を政治資金収支報告書に全く書いていなかった、と大きく報じられています」
と、名古屋市議会関係者がささやく。
「そんな工藤さんは有権者への買収行為にも手を染めたことがあるのですが、それは表沙汰になっていません。しかも、選挙運動を頑張ってもらったお礼として、選挙の約2カ月後に愛知県議や名古屋市議を韓国・ソウル旅行に連れて行っているのだからあまりにもあからさま。旅行代金は全て工藤さん持ちです」
〈景福宮にて生カルビコース〉
その選挙とは、17年10月22日に行われた衆院選のこと。ソウル旅行の期間は、同年12月17日から19日までである。
「旅行に行ったのは工藤さん本人の他、愛知県議の直江弘文氏、名古屋市議の横井利明氏、坂野公壽(ばんのこうじゅ)氏(当時)、藤沢忠将氏(故人)、藤田和秀氏、服部慎之助氏、吉田茂氏の7名。愛知県議の伊藤辰夫氏は行く予定だったものの、直前にキャンセルとなっています。直江氏は当選11回を数える愛知県議会の重鎮で、17年と21年の選挙で工藤さんの選対本部長を務めています」(同)
旅行代金の全額を工藤副大臣が払ったことを示す「証拠」が手元にある。その一つが旅行会社「ツーリストラボ」社からの請求書。宛先は工藤副大臣が代表を務める「自由民主党愛知県第四選挙区支部」で、請求金額は175万9638円となっている。そこには〈ソウル視察旅行代金〉とも記されている。
また、旅行会社が作成した〈ご旅行日程表〉によると、1日目は〈着後、ソウル市内観光〉、夕食は〈景福宮にて生カルビコース〉。2日目は〈市内及び郊外観光〉で夕食は〈龍水山にて韓定食〉となっている。使用する交通機関は全日〈専用車〉、〈利用予定ホテル〉は〈ミレニアム・ヒルトン又はロッテホテル本館〉。
「日程表が作成されたのが11月17日になっています。選挙が終わってから急いで旅行の計画を立て始めたのでしょう」(同)
「事後買収にあたる」
しかも、旅行に行ったメンバーは工藤副大臣の選挙を手伝っただけではなく、全員が彼の選挙区の有権者でもある。
「選挙運動を頑張ってもらったお礼に旅行に連れて行ったのが事実なら事後買収にあたり、公職選挙法違反となります。買収された側も被買収の罪に問われる可能性がある行為です」
そう指摘するのは、自民党派閥の裏金問題を告発した神戸学院大学教授の上脇博之氏だ。
「また、公選法では候補者が選挙区内の人に対して寄付することを禁止しています。ですので、買収目的の旅行と断定できなくとも違法ということになります」
はたして、当事者たちはどう説明するのか。旅行に参加した県議・市議の“ボス”的な立場で、工藤副大臣も頭が上がらないという直江県議は自宅で取材に応じた。
――もし(旅行代金を)払ってもらっていたら公職選挙法違反になる。
「おごってもらったらいかんというのは分かっとる」
――返した記憶はない?
「返したという思いだわ。気持ちだ、今思うと」
返したという明確な記憶はないものの、その“気持ち”はあると言い張るのだ。ところが、しばらくして再び自宅を訪れると、
「やっぱり思い出したけど、返したわ。事務所へ。確か、封筒に入れて秘書に渡したわ。女房も“確か返したと思う”って言ってるし」