その名は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)」(以下、「飲酒ガイドライン」)。
タイトルから想像できるように、酒と健康の関係や、適切な飲酒量の目安を示した厚生労働省による国内初のガイドラインが、登場間近なのだ。
ガイドラインには強制力こそないものの、酒飲みにすればこれは「御触れ」。
それでなくとも、最近は酒の害に関する耳の痛い研究報告が相次ぎ、酒飲みは肩身が狭いのに、これではまるで真綿で首を締められているかのようだ。
内容をよく知らない酒飲みの間では、この「飲酒ガイドライン」は“令和の禁酒法”ではないのかという声も上がっているほどだ。
果たして、実際はどうなのだろうか。「飲酒ガイドライン」の策定に専門家として携わっている、筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センターのセンター長で、
同大学医学医療系准教授の吉本尚氏にお話を伺った。
■アルコール関連の社会的損失は年間4兆円
先生、「飲酒ガイドライン」は一体どのようなものなのでしょうか?
「現在、厚生労働省が取りまとめている『飲酒ガイドライン』は、健康をなるべく損なわない適度な飲酒の指標を示すものです。
私のようなアルコール関連問題の専門家をはじめ、公衆衛生、栄養士、依存症の専門家、肝臓の専門医、看護師、臨床心理士、行動変容の専門家など、
さまざまな分野の専門家によって内容が検討されています。2022年10月から作成検討会が開かれ、現在はガイドラインの案を公開し、
パブリックコメントの募集が終了したところです。2024年3月の完成が予定されています」(吉本氏)
吉本氏の話を聞いて「飲酒ガイドライン(案)」を落ち着いて読んでみると、飲酒による体への影響、飲酒量と健康リスクの関係などの解説が中心で、
決して禁酒を強いる内容ではないことが分かる。
しかし、なぜ国(厚生労働省)はこのようなガイドラインを策定しようとしているのだろうか?
「2010年にWHO(世界保健機関)で承認された『アルコールの有害な使用の低減のための世界戦略』がそもそものきっかけです。
この戦略は、アルコールの有害な使用は健康面だけでなく、社会経済的発展との間にも深い関連があり、持続的な対策をとる必要がある、という考えに基づいています。
実際、日本における飲み過ぎによる病気や事故、職場での労働損失などの社会的損失は、年間4兆1483億円になるという推計があります(厚生労働省研究班、2011年)。
この金額は、実に酒税の3倍超です」(吉本氏)
アルコールによる社会的損失が年間で4兆円超とはすごい金額だ。
酒税による国の収入の3倍もあるなんて、恥ずかしながら知らなかった……。
「タバコによる健康被害が表出するのは比較的遅く、リタイヤしてから出てくることが多いのですが、
アルコールの場合は働き盛りの30~40代と早いうちに害が出ることもあります。
働き盛りの人材を失うのは、国にとって大きな経済損失になりますからね。
経済産業省が提唱し、従業員の健康管理を経営的な視点で考える『健康経営』の中にも、飲酒量やアルコール依存症に関する項目があります」(吉本氏)