「外国人への生活保護は違法だ」…。インターネットのSNSでは排外主義的な言説が見られる。2022年9月の安倍晋三元首相の国葬の際は「#国葬反対より外国人生活保護反対」の投稿が相次いだ。
生活保護法1条は保護の対象を「国民」と規定する。最高裁は14年7月、「外国人は生活保護法の対象外」とし、「国民」の範囲について初めて判断した。
しかし「外国人への生活保護が違法との認識は誤りです」と、相模女子大の奥貫妃文教授(社会保障法)は強調する。最高裁判例は「生活保護法の適用を受ける」のは日本人だけと示すにすぎない。各自治体は行政措置として一定の外国人に保護を実施してきたが、こうした措置については判断されなかったという。
◆「永住・定住などの資格を持つ外国人に限る」口頭通知
16日に判決が出るガーナ国籍シアウ・ジョンソン・クワクさん(33)が千葉市を相手にした訴訟が、行政措置としての生活保護について、真正面から司法判断を問う初事例となる。
旧厚生省は1954年、「困窮する外国人には国民に対する生活保護に準じ保護を行うこと」と各都道府県に通知。外国人保護は権利に基づくものではなく、人道的な観点から自治体の裁量で行われてきた。
ジョンソンさんの代理人、及川智志弁護士(58)によると、通知以降、外国人の保護は在留資格の有無や区分にかかわらず広く認められてきた。しかし、90年の入管難民法改正を機に旧厚生省係長による口頭通知が出され、「永住・定住などの資格を持つ外国人に限る」とされた。千葉市はこれに基づき、ジョンソンさんの生活保護の申請を却下した。
1990年の入管難民法改正 バブル景気による労働力不足などを背景に法改正し、「定住者」の在留資格を創設。3世までの日系人に就労活動制限のない滞在が認められ、ブラジルやペルーなどから多くの出稼ぎ労働者が来日した。
厚生労働省によると、21年7月時点で外国人世帯への保護は全国で4万6003件。「保護が必要な外国人はその倍以上いる」と、及川弁護士。「命に関わる重要な変更が手続きを踏まず口頭の通知を根拠になされた。その運用は今も続いている」と問題視する。
厚労省保護課の担当者は「90年の口頭通知は、54年通知で示されなかった外国人保護の対象を明確化したもの。範囲を縮小したわけではない」と説明する。
及川弁護士は「移民国家化を受け入れたくない国の本音は『働けない外国人は帰したい』だろう。しかしすでに多くの外国人が多様な労働分野で貢献し、日本社会が成立している。働けなくなったからといってなぜ見捨てるのか。彼らにも生存権の保障を」と憤る。
◆全国300万人超に増えた在留外国人
13年に206万人だった在留外国人数は、23年6月時点で322万人に増加。19年には介護や農業など人手が不足する現場に外国人材を受け入れる「特定技能」の在留資格が追加され、現在17万人が働く。
奥貫教授は、国民健康保険法や国民年金法は難民条約(日本は81年に批准)により国籍要件が取り払われ、外国人も加入できるようになったと指摘し、続けた。「日本には今、多国籍・多民族の人が住み納税もする。生活保護法の『国民』に、日本に生活基盤を置く外国人も含まれると裁判所が判断するべき時期に来ている」(加藤豊大)
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裁判の判決は16日、千葉地裁で言い渡される。もはや外国人労働者の存在抜きに成立し得ない日本社会で、司法はどんな判断を下すのか。争点や現行制度の課題を伝える。(加藤豊大)