ノンバンク最大手「中植企業集団」(本社北京)の破産申請を受理した。中国の新年は「巨大爆雷」で明けた。
これにより同集団の清算が始まるが、消失する投資家の資産は日本円換算で8兆円を超すとみられている。
日本では、平成バブル末期、1990年に表面化した戦後最大の金融スキャンダル「イトマン事件」では闇に消えたカネが
3000億円程度とみられるが、実にその数十倍の規模である。
本欄は、中植集団とその傘下にある中融国際信託が元利払いを中止した昨年8月初め以来、節目ごとにいち早く報じてきた。
中植・中融への投資家は中国全土の富裕層を中心に約20万人に上り、8月以降北京、上海など主要都市にあるオフィスには
投資家たちが抗議に押し寄せる。
習近平政権は各地の公安警察に命じて投資家個人個人の身元を突き止め、電話やネットでの通信を傍受し、
深夜、早朝を問わず刑事が自宅に踏み込んで威圧してきた。
党の指令下に置かれている人民日報をはじめとする新聞、テレビの主要メディアは中植・中融問題を控えてきた。
中植は昨年11月22日、投資家向けの書簡で、債務は最大で4600億元(約9兆2000億円)、
資産は2000億元(約4兆円余り)とした。
単純に計算すると債務超過額は5兆円余りになるが、資産の大半は不動産で、急いで売却しようとすれば、
十数%程度に値下げするしかないとの見方が多いという。とすると、投資家に返済される額は1兆円にも満たなくなる。
グラフは住宅価格と消費者物価の騰落率で、不動産相場の低迷と同時にモノの需要の低迷で
デフレ不況に突入していることを示している。
中植は不動産ばかりではなく、中小企業への貸し付けも行っており、経済活動の萎縮は資産の回収をますます困難にする。
数億円を中植に投じた上海在住のB氏は、「元本の7割くらいは戻ると思っていたが、これでは老後の資金がすべて消える」と
電話の向こうで嘆く。Bさんがそもそも中植を信用したのは、その経営幹部の顔ぶれだ。
筆頭株主は中国国家機械工業公司の100%子会社の大手繊維機械メーカーだ。
経営陣は、中国政府インターネット情報センター、国家外国為替管理局、中国証券監督管理委員会、北京市税務局、
公安部経済犯罪捜査局、最高人民法院(最高裁)の幹部OBたちである。
Bさんら多くの投資家は、習政権の介入で少なくても元本が返還されると信じ、中植に乗り込んでも、周りの投資家とともに
中国共産党をたたえ、革命歌を唱和する始末だった。
8兆円を超えそうな「消えたカネ」はどこに行ったのか。
Bさんは、「推測の域を出ないが、中植の金融商品を買った共産党幹部の多くが特権を駆使して裏で手を回し、
この数カ月のうちに、資産を回収し、残りかすを私たちに残した。ハイエナに食い尽くされたのです」と語った。