安倍晋三元首相の暗殺後、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)が依然として影響力を持っていることに多くの人が驚いた。米国でも日本でも、同教団の活動は下火になったと考えられていたからだ。
1980~90年代にかけての教団は、不気味で全体主義的な体質、異様な合同結婚式、政治的な影響力を持つことへの露骨な執着で話題を集めた。文鮮明は米国で保守系新聞「ワシントン・タイムズ」を創刊したことでも知られる。
こうした教団の活動の屋台骨を支えていたのは、日本だった。旧統一教会の本部は韓国だが1970年代以降、多くの日本人が熱狂的な信者となり、活動資金の大半も日本から得ていたことに人々は驚かされた。
2017年に教団から追放された元幹部の桜井正上によれば、日本は「事実上、教団の資金源の“支柱”となっている」という。日本国内の旧統一教会の活動を取材するなかで話を聞いた人たち(旧統一教会の現・元信者、その家族、弁護士、ジャーナリスト、政治家、被害者支援団体の関係者など10人以上)のうち、桜井はただひとり、教団を嫌悪する人と崇拝する人双方の立場に共感を示す人物であるように思えた。
モーツァルトとシューベルトのピアノソナタが静かに流れる東京都内の喫茶店で会ったとき、彼はお辞儀をしながら両手で名刺を差し出す日本式の挨拶で私を出迎えた。
旧統一教会の冷酷な手口について話すとき、桜井の口調は重かったが、間違った教えの犠牲者と彼が考える信者について語る際は穏やかになった(彼は教団内で育った)。
桜井が旧統一教会の活動に参加した1998年、同教団の献金集めは「強制的な手口に100%注力していた」という。当初、教団の資金源は印鑑や特別だとされる高麗人参茶を法外な価格で信者に売りつける「霊感商法」だった。その後、各地で訴訟を起こされるようになると、教団は直接献金に方針を転換した。
文鮮明は、「韓国はアダム国家で、日本はエバ国家」だと宣言し、日本を搾取の対象とする教義を正当化した。男性に従順な昔ながらの妻のように、日本は夫である韓国の要求を満たす義務があると彼は説いた。
このおめでたい家父長制的な教義の背景には、韓国が日本に抱く積年の怒りがある。
1910~45年まで、日本は朝鮮半島を植民地化して支配し、彼らを劣等な民族として扱った。第二次世界大戦中、何千人もの韓国人女性や少女が、日本軍によって「慰安婦」にさせられ、性的に搾取された。
戦後の日本では、こうした恥ずべき過去は認識されず、そのための教育も徹底されなかった。旧統一教会はその無知につけこみ、大きな成果を上げたのだ。
北海道札幌市を拠点にし、宗教的過激主義に関する研究施設「マインド・コントロール研究所」を運営するフランス人パスカル・ズィヴィーは、日本に暮らして40年以上になる。彼によれば、教団は勧誘の際、日本兵による韓国での戦争犯罪の写真を見せる。そのため、「日本の若者は(自国の過去に)ショックを受け、他にも隠されているものがあるのではという思いから、信じやすくなる」と指摘する。
新規に獲得した信者に対し、教団は「あなたの先祖は自分が犯した罪のために地獄で苦しんでいる。彼らを救う唯一の道は献金することだ」と持ちかける。