刑法学者で、甲南大学名誉教授の園田寿氏は「海外の流れと逆行する重罰化には疑問がある」と話す。
どんな点に問題があるのか、園田氏に詳しく解説してもらった。
※略
大麻取締法は、1948年に戦後の日本を占領統治していたGHQ(アメリカ)の強い意向によって制定された。
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しかし、法律の制定当時は、多幸感や開放感などを生じさせる大麻の精神活性作用の実体はよく分かっていなかったのである
(THCがイスラエルの化学者によって分離されたのが1964年、アメリカの化学者が合成に成功したのが2006年とされる)。
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●なぜ、使用を禁止するのか?
問題点①「大麻」とは何か?再考されず
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問題点②「依存性」と「有害性」の根拠とは?
アメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)によれば、依存症に結びつくのはコカインが15%、アルコールは約20%、タバコは約30%だが、大麻は約9%とされる。
禁断症状も他の薬物より重くないといわれている。さらに世界保健機関(WHO)によれば、大麻使用自体は急性死亡とは関係がないとされる。
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改正法案をめぐる国会審議でも「刑罰は治療のきっかけ」との発言があったが、一度でも手を出せば薬物乱用のサイクルから抜け出せないかのような説明は、
酒好きがすべてアルコール依存症にならないように、明らかに不適切である。
上述したように、大麻の依存率は他の薬物に比べて低く、すべての使用者に「治療」の必要性があるかは疑わしい。
彼らを刑事司法に乗せる根拠について改めて問われるべきである。
私たちの社会は依存症という重大な課題を抱えているが、そのほとんどはアルコールやタバコ、市販薬などの合法的な薬物による。
問題は禁止される薬物とそうでない薬物の違いは何か?である。
●ゲートウェイ・ドラッグだからダメ?
問題点③根拠とされるゲートウェイ仮説の真偽
ゲートウェイ仮説とは、大麻が覚醒剤など他の薬物乱用の入り口になることを意味し、規制の根拠として用いられる。
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海外では、ゲートウェイ仮説を支持しない研究のほうが圧倒的に多い。
大麻を事実上非犯罪化したオランダでは、アメリカよりも使用や他の違法薬物に流れる者は少ないという。
これはソフトドラッグとハードドラッグの市場を切り離したためといわれている。
もし大麻がゲートウェイ・ドラッグならば、世界はとっくの昔にヘロインやコカインなどのハードドラッグで溢れていることだろう。
ゲートウェイ仮説は、もはや実証的には支持しがたい「フィクションに近い理論」といえるかもしれない。
●規制強化で使用は減るのか?
大麻は、科学的根拠もないまま、政治的理由から単一条約の「麻薬」に分類された。
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問題点④規制強化が害をもたらす
ー薬物が与える以上の害が使用者や家族にー
仮に大麻が身体に悪いとしても、刑罰を正当化することはできない。
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薬物使用は、基本的に自分にしか害を及ぼさない。依存症になるのはごく一部なのに、多数の使用者が法の網にかかっている。
罰が防ごうとする害以上の、別の深刻な害を使用者や家族に与えた結果、多くの人が苦しんでいる。
※略
薬物が使用者個人に加える以上の害を国家が与えるべきではない。
大麻使用者は刑事司法に乗せられることにより、一生涯消えない烙印(デジタル・タトゥー)を押され、社会から疎外され、学習や仕事などの面においても多くの不利益を被っている。
※略
進歩的な国は、よりオープンで幅広い議論を活性化し、公衆衛生や人権、ハームリダクション(薬物による害の緩やかな削減)に根ざした効果的な対応を模索している。
日本の厳罰主義は大いに疑問である。
●合法と違法な薬物の違い、説明できる?
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ここで私たちを当惑させるのは、禁止政策、禁止法の矛盾した性質である。
アルコールやタバコも依存性のある精神作用物質(薬物)だが、合法だ。
しかし、私たちはアルコールがいかに公序良俗に反する行動や他害などの原因になっているかを実感している。タバコを1日1箱吸う人の4分の1は、人生の15年以上を失っている。
合法であっても、違法とされる物質以上に危険な場合がある。この規制の違いはどのように説明できるのか。