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「薄毛」に冷たい日本、薬や生活習慣改善で“治る”ものではない…20代も増加するAGA治療の今
現実生活でもネット社会でも、揶揄されることの多い「薄毛」。ルッキズムに反発が起こる現在においても、いまだ「薄毛」「ハゲ」は市民権を得られず、非モテの代名詞とも言われる。これまでカツラ、増毛、植毛、育毛などさまざまな対策が講じられてきたが、今まさに活況なのがAGA治療だ。かつては中高年男性が勤しむイメージだったAGA治療だが、現在では様相が変わり、20代男性が増えているという。「薄毛」界で何が起こっているのか。クリニックフォア新橋院の圓山尚(えんやまたかし)先生に現状を聞いた。
【ビフォーアフター】ヤバめの薄毛も取り返しがついた! 期間は?値段は?どのくらいかかるか
■「20代の約10%はAGA」という統計も、20代~30代の受診が増加
古くから「薄毛」は、容姿差別の憂き目に遭ってきた。ゴシップ誌では「実はあの芸能人はカツラだ」などと取り沙汰され、バラエティーでは笑いの対象に(思えば加藤茶のズラも志村けんさんの“変なおじさん”もハゲていた)。これはエンタメ界にとどまらず、一般社会でも同じで、「薄毛」は嘲笑の的となってきた。もちろんそれらは、恋愛や婚活の市場にも影響。「薄毛」「ハゲ」は非モテであり、昨今話題の“弱者男性”の要素の一つにもなっているように思える。
とはいえ、「おじさんの代名詞」と捉えられてきたように、以前は薄毛に悩む人は中高年男性であり、人知れず育毛剤を買ってこっそり…というイメージが強かった。だが現在、その様相は変わり、「AGA治療を行う20代男性が増えている」という。
「一般的には、AGA治療というと40~50代の方が対象に思われますが、実際に当院を受診される方で多いのは20代と30代。ついで、40代と50代となっています。『20代の約10%はAGA』【※】という統計もありますが、私の体感としては、『どこがAGA?』と感じるくらいの方が、とても気にされている印象です。とくに20代の方はセンシティブですね」
【※】板見 智:日本人成人男性における毛髪(男性型脱毛)に関する意識調査.日本医事新報:第 4209号,27―29, 2004
昨今、20代男性の美意識が高まり、男性でも脱毛やメイクをすることが増えているのも一因。美容への意識が高くなったことで、「父親も薄毛だし…」と不安を抱いたり、「友だちに『薄くなった』といじられた」と気にして、来院する人も増えた。
「ほかに、コロナ禍でオンライン診療規制が緩和されたことも大きいでしょう。AGA治療という特性上、対面が恥ずかしい人でもオンラインなら敷居が下がりますし、手軽に診断を受けられます。また、以前は治療費が高額でしたが、価格競争が起きたことで低額化。月に一度美容院でカットする、または女性が全身脱毛に通うくらいの感覚で受診できるようになったのも、20代が増加した理由かもしれません」
そうして若いうちから治療を始める人が増えたせいか、「日本の薄毛人口が減った」と言われることもある。
「薄毛が減ったと言って良いかはわかりませんが、治療する人が増えて薄毛の対策ができるようになった、とは言えるでしょう」
■AGAは薬で「治る」ものではない、飲むのをやめた時点から進行
このように、若いうちから開始する人が増えているわけだが、AGA治療は薬の処方がメインとなる。これは効果があると言われるが、「薬を飲み始めたら一生続けないといけない」として、不安を抱く人もいる。
「これは実際、そのとおりです。世の中には『髪のためにストレスをためず、睡眠をしっかりとって』『海藻類を食べるのがいい』といった都市伝説は多いですが、AGAは生活習慣の改善などでは治すのは難しいんです。と言いますか、他の病気と違い、AGAは薬で『治る』ものではないのです。処方薬はあくまで、男性ホルモンを活性型に変換する酵素をブロックするもの。AGAの進行を遅らせることはできますが、飲むのをやめればブロックされなくなり、その時点から進行します」
「治る」という概念を持つのがそもそもの間違いであれば、薬を飲み続けるしかないのは理解できる。では、市販されている育毛剤は数々あるが、それではダメなのか。
「ミノキシジルという成分が入っていれば、効果は期待できます。ただ、ミノキシジルを5%含有しているものでも、1万円前後はします。それ以上の濃度になると、AGAクリニックなどで処方される薬しかない。市販薬でも高価なため、実際はクリニックで診断してもらい、自分に合った薬を処方してもらった方が費用対効果は高いと思います」
早めに治療を始めればコストは抑えられ、強い薬を使わなくて済む。AGAがそこまで進行していなくとも、予防として処方薬を飲んでも問題はないとのこと。ただ、処方薬にもある程度の副作用はあるため、医師への相談は必須。また、気軽なオンライン診療でも問題ないが、対面のほうが良い場合もある。
「オンラインの最大のデメリットは、『もし違う病気だったら?』ということです。AGAと円形脱毛症が併発している場合もありますし、それぞれ別問題なので対面で診察を受ける方が良いでしょう。また、オンライン診療では患者さんから頭部の写真や動画を送っていただくのですが、画質が良くなくて正しく診られないことも。直接診てほしい場合は対面を選択するなど、自分に合った診療を受けていただくのが望ましいと思います」
最後に、圓山先生がわかりやすい“たとえ”を教えてくれた。
「人間の細胞分裂の回数は決まっていて、通常のヘアサイクル(2~6年)から算出されるトータルの毛髪寿命は100年から150年といわれています。AGAは、ヘアサイクルが短縮されることでその“貯金”をすごいスピードで使いつぶすようなものなので、早くから介入したほうがヘアサイクルの“節約”になると言えます。“貯金”が残っていれば残っているほど、取り返しはつきやすくなる。進行していればしているほど“貯金”がないので、難しい治療になるんですね」
美容意識の高まり、将来への投資という観点では、AGA治療を20代からスタートするというのはある意味、正解だということになる。ともすれば、人生を狂わせかねない「薄毛」。だが、「取り返しはつく」という言葉はかすかな希望を感じさせる。オンライン診療の規制緩和、コストの低額化など、変化の激しいAGA治療の現在。ユーザーは、正しい知識を得て、賢く利用するのが良さそうだ。
(文:衣輪晋一)
圓山 尚(えんやまたかし)
クリニックフォア新橋院院長。金沢医科大学医学部卒業後、日本医科大学附属病院皮膚科に入局し皮膚科・皮膚外科・レーザーを中心とした診療を行う。その後、湘南美容クリニックでの勤務を経て、2019年にクリニックフォア新橋院を開院。
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