老人ホームの若輩者「私たちには時期尚早でした」…年金36万円の70歳夫婦、3,000万円支払って高齢施設入居も、5ヵ月で“3階建ての家”にさっさと帰還のワケ【CFPが解説】

NO IMAGE

老人ホームの若輩者「私たちには時期尚早でした」…年金36万円の70歳夫婦、3,000万円支払って高齢施設入居も、5ヵ月で“3階建ての家”にさっさと帰還のワケ【CFPが解説】

高齢化が進むなか、昨今では高齢施設のなかにも単なる老人ホームだけでなく、高級志向のものやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった選択肢が増え、老後の住まいが多様化しています。終の棲家に選ぶ人も多いなか、一方で入居後に合わないと感じる人も……。本記事では、Aさん夫婦(ともに70歳)の事例とともに、「老人ホーム探し」で注意すべきポイントについてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。

夫婦で老人ホームに入居

70歳のAさんは、同い年の夫と都内に3階建ての戸建てを構えて暮らしています。65歳で定年退職後、年金収入と貯蓄を取り崩しながら悠々自適のセカンドライフを過ごしていましたが、徐々に夫の体調に変化が。

「身体を動かすのが億劫になってきているようでした。これまでは3階の寝室で寝ていたのですが、最近は階段を使うことができず1階の和室に布団を敷いて寝ています。いまは2階と3階はほとんど使用せず、埃が溜まっている状態です。なんとかしなくてはいけないんですけどね」

Aさんの夫は現役時代、商社に勤務しずっと仕事に打ち込んできた、いわゆる「仕事人間」でした。当時の最高年収は2,500万円といわゆる勝ち組エリートサラリーマンでした。

しかし、定年後はこれといって打ち込めるものが見つからず、生きがいを見失ってしまったようで気力にも影響が出てきてしまっているのかも、とAさんは心配します。

定年退職から5年後、夫は「要介護1」と診断されました。健康のためにも日ごろから身体を動かしたり、会話を積極的に行うように、とケアマネジャーからは言われていますが、なかなか行動に移すことができません。

そんな夫をみて、Aさんは提案をします。

「あなたの体調も心配ですし、老人ホームに2人で住むのはどうかしら。老人ホームなら身体を動かしたり、ほかの方と会話もできそうですよ」

自宅の近くで見つけた高級老人ホーム

Aさん夫妻が探したのは、自宅から近い老人ホームでした。長年住んだ環境を変えたくないという思いからでした。

「これまで住んだ土地から離れるのは少し抵抗があったので、これまでとなるべく変わらない環境で住めたらいいねと話し合っていた矢先、最適な老人ホームを見つけたんです」

Aさん夫婦は、自宅からも近い老人ホームを見つけました。2人が住むエリアは、都内の閑静な住宅街。そのなかでも目をひく高級感のある外観にAさん夫婦は一目惚れ

施設も充実しており、天井の高く開放感のあるエントランスガーデニングのできる中庭、シェフの作る食事、常駐の介護スタッフ。なんといっても、夫婦2人で入居できる2人部屋があるというのはAさん夫婦にとって一番のポイントでした。

高級老人ホームホテルのような非日常感に、こんな暮らしが毎日できたらと2人は早速入居を決意しました。

Aさん夫婦の資金計画

Aさん夫婦は、老人ホームの資金計画をFPのもとへ相談に来ました。資金計画は下記のようになります。

■資金

収入(年金) 約36万円/月

貯蓄 6,000万円

■費用

入居一時金 3,000万円

月額 50万円

入居一時金3,000万円を貯蓄から支払い、月額費用50万円を年金から充て、不足分を貯蓄から支払ったとしても、17〜18年は入居できると計算。 加えて現在の持ち家を賃貸や売却に出す等で今後の収支バランスを調整。

お金の準備も整ったところで、いよいよ2人の老人ホーム生活が始まります。しかし、その生活は長くは続かなかったのでした……。

たった5ヵ月で退去…その理由は?

食事の味付けが合わない

老人ホーム生活で楽しみにしていたもののひとつが、食事でした。広い食堂で提供される季節に合わせた献立は、見学の際のお気に入りポイントでした。

料理の盛り付けも工夫されており、さまざまな献立が用意されていて最初は雰囲気で食事を楽しんでいましたが、Aさん夫婦は自分達の好みの味ではないことに徐々にストレスを感じ始めます。

「献立もしっかり考えられていて工夫されているのですが、基本的に少し薄味で私たちにはちょっと物足りないと感じました。それもそのはずで、食堂で食べている居住人の方々は、私たちより1回りくらい年齢が上の方がほとんどだったんです」

Aさん夫妻は70歳。周りを見渡すと、およそ80歳以上の人が大半だったとのことです。

居住人との年齢層が合わない

食事の一件で自分達と居住人の年齢層の違いに気づいたAさん夫妻は、どうしてもそこに目が行くようになってしまいます。共有スペースで談笑している人、中庭で散歩をしている人、レクレーションに参加している人……。どこにいても年齢の近い居住人と会うことはなく、会話に入りづらいと思うようになってしまいました。

Aさんの夫も同様で、居住人同士の交流を通じて会話や運動をしようと考えていたのに、むしろ自分達の部屋に篭るようになってしまいました。

そして老人ホームに入居して5ヵ月、Aさん夫妻は退去を決意しました。

「老人ホーム自体は設備もよく、文句などなかったのですが、私たちには食の好みと居住人との年齢層が合いませんでした。見学のときには設備や住環境のことばかりに目がいって、実際に住んでいる方の雰囲気まで確認できていなかったので……」

幸い、まだ持ち家は売却していなかったのでもとの住まいに戻ることはできました。しかし、入居時に支払った一時金はすでに2割ほど償却されており、一時金として支払った約8割が戻ってくる形となりました。

「今回の件で老後の住まいを探すときの、私たちならではの外せないポイントがよくわかりました。主人も老人ホームでの生活が少し刺激になったようで、身体を動かす努力を始めています。家の片付けも一緒に手伝ってくれるので、最近では2階のトイレを使ったり、3階の窓を開けに行ってくれたりもまたするようになりました。

もしかすると、なんとかずっとこの家に住んでいけるかもしれませんね。初めての老人ホーム探しは失敗だったかもしれないけれど、今後につながるいい経験と思って、前向きに暮らしていきます。老人ホームは私たちには時期尚早だったみたいです」

老人ホーム探しのポイント

・実際に見学や体験入居を行い、施設の雰囲気を確かめたり設備/サービスを体験してみる ・食事は試食し、献立や味付けが自分の好みか確認する ・居住人の雰囲気を確認、実際に自分が住んだときに楽しく過ごせそうかイメージしてみる ・レクレーションや趣味を楽しめる交流イベントの有無

終の棲家となるかもしれない老人ホーム。実際に入居してみると、入居前には見えづらい、思わぬデメリットが見つかるかもしれません。それが自分たちのこだわりの点であれば、のちのち大きな問題となるでしょう。

加齢による身体の変化が、老人ホームなどの高齢施設入居のきっかけになる人が多いです。しかし、施設の入居の際には、現役時代、高額な住宅ローンを組んで持ち家を購入することを決めたときと同じレベルの覚悟で検討する必要があるのです。そうでなければ、事例のAさんのようにせっかく支払った高額な入居一時金や月額費用などが無駄になってしまうこともあり得ます。

セカンドライフを送る世帯は、体調の異変が起きてから考え始めるのではなく、できる限り早いうちから今後の住まいについて家族と相談しておくことが大切です。

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)

(出典 news.nicovideo.jp)


(出典 job.kiracare.jp)
「36万円の年金だけで高齢施設の生活費をまかなうのは難しいですね。このような話を聞くと、老後の生活費準備がますます重要になります。」

<このニュースへのネットの反応>

続きを読む

続きを見る

ニュースカテゴリの最新記事