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近所の優しいお婆さんが豹変、“泥沼金銭トラブル”に。息子に「絶縁され帰る家がなくなる」まで
お年寄り大国・日本。超高齢社会に突入してから早15年以上が過ぎ、高齢者にまつわるニュースは明暗いずれも枚挙にいとまがない。今回紹介するエピソードは、残念ながら闇の方。“ほっこり”の皮を被った恐怖体験を語ってもらった。
「ご老人に対する姿勢が“ガチ”で変わった経験でした。長く生きている人間は、やはり舐めてかかっちゃダメですね」
梅田和馬さん(仮名・29歳)がそう切り出した事件は、今から6年ほど前にさかのぼる。
◆一緒に上京した彼女がホームシックに…
「メーカーの製造職として就職が決まって、東北の田舎から東京に出ることになりました。せっかくなので、交際中の彼女とも同棲することにしたんです。ゆくゆく結婚するつもりでしたから」
梅田さんと彼女の結衣さん(仮名)が住んだのは、築50年以上になるアパート。長年住んだ地元を離れて心細いなかでも、彼女と支え合う生活に胸を膨らませていた。
「ただ、周りに頼れる人は誰もいないので不安も大きくて。もっとも職場という拠り所がある私はまだよかったのですが、私だけが頼りである結衣がホームシックにかかってしまったんです。そんな時に、近所に住むおばあさんと出会いました。その荻野さん(仮名)の自宅は駅までの通り道。軒先でよく鉢植えをいじっている荻野さんに、声をかけられるようになったんです」
◆東京でのご近所付き合いは嬉しかった
荻野さんは気さくで明るい性格。すぐに見知った仲になった。
「私は朝早くから仕事をしていたので、たまにしか会いませんでした。けれど結衣は不定期でアルバイトをする程度でしたから、荻野さんと会う機会も多かったんでしょうね。頻繁に会話に登場するようになりました」
荻野さんの名前も聞き慣れたある日、帰宅した梅田さんを出迎えたのは結衣さんだけではなかった。結衣さんは荻野さんを、自宅に招くほどの間柄になっていたのだ。
「知り合いがいない土地でしたし、東京でご近所付き合いができるとは予想外で。心が温まる思いでしたね。なにより結衣の笑顔が増えてうれしかったんです」
◆“第二のお母さん”呼ばわり…頻繁に家に招くように
しかし、梅田さんが微笑ましく眺める日々は長く続かなかった。荻野さんの来訪ペースがみるみるうちに増えたのである。当初は週に1回程度の自宅お茶会が、たちまちに週2、3回開催となるのはおろか、瞬く間に梅田さんの休日にまで侵食した。
「気がつけば2人だけの時間すらなくなっていました。とはいっても、荻野さんが強引に上がり込んでくるのではなく、結衣が自ら望んで招いていたんです。家に呼ぶ回数を減らしてと頼んでも、『荻野さんは第二のお母さんだと思っている。それなのに呼ぶなっていうの?』と聞き入れてくれなくて……」
悲しいかな、状況はさらなる悪化を見せる。梅田さんの心労に比例するようにして、結衣さんの言動は怪しくなっていった。
「彼女からなじられることが多くなりました。『稼ぎが少ない』とか『結婚式を挙げるためにはもっとお金が必要』とか、おもに金銭面について。イラつきましたが、結婚資金を予定通りに貯められていないのは事実だったんです。それで、休みの日に軽作業のアルバイトを始めることにしました」
◆なぜか「貯金が減っていた」
結婚を思えばこそ、今こそ踏ん張りどきである——。と、甲斐甲斐しい梅田さんの心を折る出来事が発生する。
「久しぶりに通帳を見ると、バイトを始める前よりも貯金が減っていたんです。なんなら上京前の貯金までなくなっていました。もちろん結婚資金のためのバイトですから、変わらず質素な生活ぶりです。安いスーパーで食材を買って自炊して、服は安い量販店でたまに買うぐらいの。友人もいないので飲みにも行ってませんでした」
首を傾げつつカードの利用履歴を確認すると、不可解な名目がズラリ。
「飲食費やデパートの婦人服の購入履歴がびっしりと並んでいました。結衣に問いただしたところ、やはりと言うべきか、元凶は“荻野さん”。服を買ってあげたり、外食した時の代金を奢っているとのことでした。『結婚するために貯めた金だろ!』と怒ると、彼女も『もう奢ったりしない』と、さすがに反省した面持ちでしたから、一度は水に流すことにしたんです」
◆「もう家に来ないでほしい」と伝えたところ…
だが、結衣さんに巣食う「第二の母」の根はあまりに深かった。
「事態が発覚したあとも、結衣は荻野さんに奢ることをやめられなかったんです。私がいくら怒っても、『これは人生相談に乗ってもらっているお礼だ』と正当化。毎日話しても埒があきませんでした」
梅田さんの説得むなしく、結衣さんの依存心は加速していくばかり。
「ついには、荻野さんの許可がないとなにもできなくなってしまったんです。お昼や夕飯に食べるものまで、荻野さんに聞く始末。なににつけても『荻野さんに聞かないと』って……怖くないですか? 洗脳を疑い始めました」
豹変してしまった大切なパートナーを救うべく、梅田さんは真っ向対決に臨んだ。
「荻野さんに『もう家に来ないでほしい』と話しました。すると、『こっちは人生相談に乗ってやっているのになにを偉そうに!』と、怒涛の勢いでブチギレられました。東京から出てきてホームシックに陥っている結衣にとって、いかに自分が必要な存在であるかをこんこんと力説するんです。彼女に寄る辺がないのは事実ですし、私だけで寂しさを埋めてあげられない不甲斐なさもあって、その場ではつい納得してしまいました」
◆家族に相談したら息子が助け舟を出してくれ…
それでも違和感は残る。
「いくら彼女が寂しがっているとはいえ、お金が絡む理由にはなりませんよね。なので何度も荻野さんにそう伝えるのですが……年の功なのかめっぽう口が立つんです。追及しては言い包められてのサイクル。これをずっと繰り返していました」
悪夢のような膠着状態を破ったのは、なんと消費者金融からの督促状。結衣さんの貢ぎ癖は止まるところを知らなかった。
「いよいよたまりかねて、荻野さんの家族を突撃したんです。ダメ元でしたが、息子さんからそれは丁寧に謝罪されました。というのも常習犯で、詐欺で告訴されたことすらあるのだとか。同じような金銭トラブルをほかのご近所さんや知人相手にも、幾度となく起こしてきたそうです。次があれば絶縁も辞さないと言い渡していたという息子さんの、『後はお任せいただけませんか』。その言葉を信じて待つことにしました」
◆絶縁されて帰る家がなくなってしまった
しかし「この親にしてこの子あり」の言葉もある。鵜呑みにするつもりはなかった梅田さんだが……。
「同類でなくたって、息子さん自身が説き伏せられてしまう可能性もあるわけですから。でもその後、荻野さんから『3人で暮らそう』と持ちかけられたんです。絶縁は本気の代物で、帰る家もなくなったようでした。案の定、結衣は3人で暮らすことに乗り気でしたけど、息子さんに背中を押されましたね。キッパリ断ることができたんです」
それでもしばらくの間は、梅田さん宅のドアを叩きながら「中に入れてほしい」と懇願する荻野さんの姿はあった。しかし絶縁がよほど堪えたのか、かつての執着ぶりは嘘のようにあっさり見かけなくなったそう。
「しかも後日、息子さん経由でキッチリ返金していただけたんです。もし家族の方に助けてもらえなかったら……考えると恐ろしいですね。取り返しのつかないことになっていたかもしれません」
結衣さんの洗脳も無事に解け、戻ってきたお金で再出発ができた梅田さんカップル。晴れて結婚し、2人の子宝にも恵まれた彼の言葉は、深長そのものである。
怪しい宗教やマルチ、あるいは悪徳ホストでなくとも、寂しさにつけ込む輩は身近に潜んでいる。そしてまた、騙す側の出発点にも“孤独感”があるのだろう。被害者、そして加害者を生み出さないために、世代を超えた交流が活性化されていくことを願う。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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