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習近平はもう詰んでいる…「不動産バブル崩壊」の次に進む「中国人富裕層の国外脱出」の深刻すぎる状況
経済協力開発機構(OECD)による国際移住アウトルック(“International Migration Outlook 2023”)によると、2018年頃から海外に移住する中国人は増加している。コロナ禍で一時的に移住者は減少したものの、2022年12月、政府の“ゼロコロナ政策”の段階的解除で、中国から米国などへ移住する人が再び急増しているという。
移住を目指す人々は、富裕層から低所得層まで広い範囲にわたっているとみられる。そうした人々の中には、中国から出て新しい可能性にチャレンジする意図もあるようだ。
中国の人々による海外脱出の要因として、経済の先行きや雇用などへの懸念が高まったことがあるとみられる。不動産バブル崩壊により、中国が高い経済成長を続けることは難しくなった。IT関連など一部に少し明るい兆しもあるものの、いまのところ中国政府にはそうした分野を積極的に活かす政策がみられない。経済よりも、政治や政権維持を重視する習政権の考えはかなり強いとみられる。
今後も中国からの脱出を目指す人は増えることが想定される。海外移住に伴って資金も海外に流出し、最悪のケースでは中国の金融システムが不安定化することも考えられる。今のところ、中国政府は明確な対応策を打ち出しておらず、これから中国社会にマイナスの影響が出ることが懸念される。
■アメリカへ不法入国を試みる中国人が急増中
コロナ禍で中国政府が“ゼロコロナ政策”を実施したため、一時、人々の移動は強く制限された。そのため2020年以降、海外移住者は一時的に急減したものの、2021年以降は徐々に増加した。2023年1月にゼロコロナ政策が終了すると、海外移住は一気に加速した。
米国税関・国境警備局(CBP)のデータによると、2023年1月以降、米国への不法入国を試み摘発される中国人は5月までの間に1万728人(昨年同期比で17倍)と急増した。その多くが中国からエクアドルなどにいったん入国し、陸路でメキシコ国境を越えようとした。
富裕層の流出も勢いづいているようだ。移住や市民権の取得などを専門とするコンサルティング会社、ヘンリー・アンド・パートナーズの報告書(“Henley Private Wealth Migration Report 2023”)によると、2022年、中国を去った富裕層(100万ドル=1億4200万円以上の投資可能な資産保有者)はおよそ1万800人だった。2023年は1万3500人に増加した。
(略)
今後も、中国の雇用機会は減少せざるを得ない。懸念されるのは、雇用・所得環境の厳しさが高まる中でより多くの若者が労働市場に参入することだ。中国教育省は2024年度の大学・大学院卒業者数が1179万人になるとの見通しを公表した。新卒学生の就職難の深刻化は避けられないと考えられる。
中国政府は雇用の悪化を食い止めるために、企業に採用を増やすよう圧力をかけたが、実質的な効果は見込めない。雇用・所得環境の悪化により、デフレ圧力は高まり、個人消費、企業の設備投資の減少も避けられないだろう。
■当面ヒト・モノ・カネの流出は止まらない
そうなると、若年層を中心により良い就職の機会、自由な生き方などを目指して海外に移住しようとする人は加速度的に増加する。海外移住の増加とともに、資金も海外に流れ出す。
資金流出は人民元の下落圧力を高め、社会心理を不安定化させるだろう。それを食い止めるために、中国政府は一度に外貨と交換できる金額を制限したり、“デジタル人民元”の普及を急いだりして社会と経済に対する統制を強化しようとするはずだ。
それに反発する人は、あの手この手を使って資金を海外に持ち出そうとする。そうした観測が高まると、主要海外投資家の一部が人民元の先安観を警戒し、本土の株や債券に対する売り圧力が強まるだろう。海外投資家の売りが急増し、“トリプル安(株安、債券安、通貨安)”が鮮明となる恐れもある。本土金融市場の不安定化は、下落基調にある不動産市況を下押しし、不良債権残高の増加要因にもなりうる。実体経済の下押し圧力も強まる。
今のところ、中国政府は大手銀行などに公的資金を注入し、不良債権処理を進める考えを明確に示していない。当面、中国からヒト・モノ・カネの流出は加速し、景気低迷の懸念も一段と高まるだろう。
真壁昭夫(多摩大学特別招聘教授)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0d12d929fe14a3f262477b6ed12830302da5e2d3?page=1