欧州の政策と比べて圧倒的に規模が小さいことも問題ですが、やはり本当の原因である若者の貧困の問題が無視されていることだと思います。
たとえば、結婚できた女性が生涯に産む子供の数(完結出生児数)で言っても、1970年代の2.2から現在の1.9までほとんど変わっておらず、また、大卒女子に限って言えば、この間、ジェンダー差別の解消努力や子育て支援などで出生率の上昇がみられるのですが、それでも国全体としての出生率は昨年、1.26まで下がっています。これはどういうことかというと、要するに結婚できない層、子供を持てない層が増えているということなんですね。つまり、この問題を放置して、人口減は解決しないということです。
実際、今年12月に開かれた「こども未来戦略会議」に提出された岸田政権の少子化対策案も6月の記者会見での内容とほとんど変わっておらず、そこで対策の対象とされています「すべての子ども・子育て世帯」にはそもそも結婚できない若者は入っていません。少子化の根本原因がまったく理解されていないことになります。
たとえば、どうでしょうか。子どもが3人以上いる世帯の大学授業料を所得制限なしで2025年度から無償化としていますが、これって要するに結婚できて、かつまた3人以上を産める世帯、それも全員大学まで出せる世帯への支援ですね。そういう支援自体に間違いはなくとも、どう見ても岸田政権が見ている社会階層は「中間層」ないしその上層です。「貧乏人は結婚できず、子供は産まなくともよい。他でカバーします」という戦略です。
ですが、この戦略、よくよく考えてみますと、貧困のない社会をつくろうとしない限り、今中間層が産む子供たちの何分の一かが将来の貧困層とならざるを得ません。現在の貧困層の子孫はそもそも将来にはいないわけですから、今子供を産む家庭の子孫に貧乏になってもらわないと困る、といった戦略であることになります。大きな意味では、これも「新自由主義的」な社会像ということになると思います