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「日本は緩やかな身分社会」気鋭の教育学者が懸念する教育格差
――「教育格差」とは、どのように決まるのでしょうか。
◆「初期条件」を示す指標として国内外で広く使われているのは、保護者(以下、親)の学歴▽世帯年収▽職業などを統合した概念である社会経済的地位(Socioeconomic status、以下SES)です。
出身家庭のSESや地域という子ども本人に変えることができない初期条件によって、学力や最終学歴といった教育の結果に差がある傾向を「教育格差」と呼びます。
一方で、日本は最終学歴によって就業状態や収入などに差がある学歴格差社会でもあります。初期条件が学歴を介して人生の可能性を制限しているので、「緩やかな身分社会」と言えます。
――教育格差の一例を教えてください。
2001年に生まれた子どもを追跡調査した「21世紀出生児縦断調査」(厚生労働省・文部科学省)を分析すると、例えば、中学1年生の時点で大学進学を具体的な進路として選んでいた子どもは、両親大卒層の約6割▽両親の一方が大卒層で4割▽両親非大卒層で2割――でした。つまり、親が大卒ではない場合、子どもはそもそも大学進学を希望しない傾向があるわけです。
“両親大卒”のようにSESが高い層では、子どもが小学生の時点で将来の大学進学を前提としていて、習い事をさせたり塾に通わせたりといった子どもの学習機会を充実させる子育てが一般的です。そのような家庭で育つ子どもは、親の期待を内在化して大学進学を自分の希望とするようになると考えられます。
一方で、親が大学に進学したことのないSESが低い層では、親は子どもの生活時間に積極的な介入を行わず、子どもが大学に進学することを現実的な進路として期待しない傾向があります。
■悪経済支援だけでは埋まらない進学意欲の格差
――大学進学は進学意欲の有無に左右され、その背景に「初期条件」があるということでしょうか。
◆出身家庭のSES、出身地域、性別といった初期条件によって大学進学意欲に差がある傾向はデータで繰り返し確認されてきました。このような進学意欲格差という傾向は、学力を考慮しても見られます。
言い換えると、同じ学力でも、出身家庭のSESなどによって進学意欲に差があるわけです。奨学金や授業料無償化の議論では、経済的に苦しいけれど大学進学を望む子どもが支援対象であって、初期条件によってそもそも大学進学を選択肢に入れない層は視野に入っていません。
進学意欲を持つかどうかを子どもの自己責任にするのではなく、教育行政は、初期条件によって大学進学を望む割合に偏りがある実態と向き合う必要があります。
■最も進学を望まない傾向が強いのは
――特に注目すべき「初期条件」はありますか。
◆日本では、出身家庭のSES、出身地域、それに性別の三つが主要な初期条件です。具体的には、親が非大卒を含む低SES家庭出身、地方出身、女性であると、子ども自身が大学進学を望まないし実際に進学しない傾向があります。
一方で、“両親大卒”といった高SES家庭出身、都市部出身、男性であると高い割合で大学進学を望み、実際に大卒となりやすいです。どちらの層も、初期条件によって「今の人生を選んだ」というより、親の期待や目に見える範囲の同級生などを基準にして「自然」とそのような選択をしたという自己認識の人が多いかもしれません。
どちらの人生が正しいというわけではありません。ただ、非大卒と大卒では、就業状態や収入という社会経済的な結果に格差がありますし、それらが次の選択肢を広げたり制限したりする格差社会という実態があります。
なお、近年増加している外国籍や日本語が第一言語ではない家庭環境も、教育行政が重点的に支援すべき初期条件の一つと言えます。
■中学受験熱の背景にも「初期条件」
以下全文はソース先で
毎日新聞 2023/12/23 06:30(最終更新 12/23 11:46)
https://mainichi.jp/articles/20231222/k00/00m/040/300000c