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若者よりも“孤独”を感じやすい中高年。ITツール免除も“配慮”のつもりが逆効果に…
人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は中高年社員と上司のかかわり方を解説する。
◆いつも注意喚起している中高年のコミュニケーション不足
中高年社員は、年下上司が思っている以上に孤独感・疎外感を感じやすい。上司自身はコミュニケーションが取れているつもりでも、知らず知らず進行している中高年のコミュニケーション不足について、セミナーでの講演内容も含めて紹介する。
2023年は、セミナー登壇・講師の依頼が多くあった。都道府県・自治体主催のものも多く、中高年の求職者向けに就職のアドバイスをするものから、求人企業向けに中高年を採用する際の注意点を解くものまで、様々だった。
中高年求職者向けと、求人企業向け、それぞれのアドバイスもあれば、どちらにも共通するアドバイスもある。共通するアドバイスの一つが、「中高年社員のコミュニケーション不足と孤立」に関するものだ。
例えば、「中高年はITが苦手」という先入観から、特例で中高年のITツール使用を免除すると、かえって孤独感が増してパフォーマンスの低下や離職につながる、といった話を、私はこれまで様々なセミナーで講演している。
◆ITツール免除、“配慮”のつもりが逆効果
社員の活躍についてコミュニケーションが重要となるのは、何も中高年に限ったことではない。職場での悩みや退職理由に「人間関係」を挙げる人は、全年齢を通じて多い。
しかし、中高年の場合、他の年代よりもさらにコミュニケーション不足や職場内での孤独は深刻な事態に発展しやすい。また、問題が発生してから短い期間で深刻化しやすい。これには中高年特有の状況が関連している。
最近では上司が年下であるケースが珍しくない。若手中心の会社であれば、周囲の同僚も全員年下ということもあるだろう。「年下に頭を下げたくない」といった悪感情を持つ一部のシニアにはもちろんストレスだろうが、そうではない腰の低い中高年であっても、若手に遠慮してコミュニケーションが不足するケースが多くあるのだ。
私たちが支援で接した何万人というシニアや、私たちの社内で活躍するシニアにヒアリングした中でも、「私のような高齢者が出しゃばっても若い人の迷惑になると思う」と話す人が少なくない。そうしたマインドは、中高年社員のコミュニケーションを業務に必要最低限に狭めてしまう。
社員数の多い会社であれば一定数以上の中高年がいるが、都市部のスタートアップやベンチャーのオフィスワークでは中高年がいても多くない。また、複数の中高年社員がいればコミュニケーションが取れるかと思いきや、むしろ60代と50代のような小さい年齢差のほうが確執を生む場合もあり、簡単ではない。
◆会社側の“配慮”が逆効果になる
こうした中高年社員のコミュニケーション不足に拍車をかけるのが、会社側のいき過ぎた“配慮”だ。冒頭でも触れたように、ITツールの使用などについて中高年社員に「特例」「特別扱い」をするのは、むしろ逆効果で絶対にやめるべきだ。
会社全員がビジネスチャットの利用やデジタルの勤怠管理を行う中で、中高年だけ「紙でいいよ」などと特例を認めるのは、一見、ITが苦手な社員への配慮に思えるが、これを行うとそれだけで疎外感が生まれる。通常の業務の流れの中にいないだけで、ちょっとした雑談にも入りにくくなる。
中高年社員自身も、特別扱いされた当初は楽かもしれないが、いずれ孤独感が増すため、積極的に皆と同じツールに慣れるべきだし、会社も中高年を特別扱いするより、皆と同じITツールに慣れてもらったほうが後々の離職を防げる。
こうした中高年社員のコミュニケーション不足や孤独は、なかなか年下上司では気づきにくい。私もこれまで多くの50〜70代のシニア社員を採用したが、何人か採用した時点でもコミュニケーションが不足しているとは気づかなかった。
例えば、私たちはテレホンアポインター(インサイドセールス)の仕事で多くのシニアを採用しているが、その中に成績も抜群で長く活躍したシニアがいた。私としてはコミュニケーションが取れている認識だったが、ある時ヒアリングしたところ、本人はそれでもコミュニケーション不足を感じる時があると答えたのだ。
会社全体ではなく、社員が何人かで集まるような飲み会にも進んで参加するシニアで、私からはあだ名で呼ぶような関係性だったので、まさかコミュニケーション不足とは思わなかった。しかし、若手とのちょっとした対応の違いから、疎外感を感じる瞬間があったのだという。
もちろん、疎外感をまったく感じさせない完璧なコミュニケーションは難しいが、この一件で私は、自分の世代と中高年との感覚の差や、中高年のコミュニケーション不足には注意し過ぎるくらいでちょうどいいと感じたのだった。
少子高齢化で高齢者の比率も高くなり、長く働き続ける時代になっただけでなく、年功序列の廃止や能力主義の会社も増え、若いうちから高齢社員の上司になる人もさらに増えるだろう。私もそうだったが、そうした若い人の想像以上に、中高年はコミュニケーション不足と孤独を感じやすい。
中高年については、コミュニケーションと健康状態については本人任せにするのではなく、上司や会社が積極的に考える必要がある。健康について触れたついでに述べると、健康を崩すと気持ちもネガティブになる上、入院・療養などで休むと物理的にもコミュニケーションが途絶えるため、さらに注意が必要になる。
この人生100年時代に経営者や管理職となる人は、コミュニケーション術を含めた中高年社員のマネジメントスキルが、これまでの時代に比べ、かなり重要になるだろう。<文/中島康恵>
【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
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